2009.08.27
一眼レフで猿になる
写真には正直全く興味がなくて、今までネットに公開していたわんこの写真自体、 ほとんどは奥さんが撮ったものだった。
この5年間ぐらい、うちではずっと、パナソニックのLUMIX という、 たしか6万円ぐらいのコンパクトデジカメを使っていた。そこそこいい値段がしたし、 レンズもそこそこ明るかったものだから、性能的には全く不満がなかった。
アナログ写真じゃないんだから、デジタルの一眼レフというのは、どこか欺瞞だと思っていた。 信号を電子的に分割して表示すれば、わざわざファインダーを別に作る必要なんてないんだから、 可動式のミラーを内蔵させる仕組みというのは、あれは安い中身を顧客に高く売りつけるための、 メーカーの方便なんだと考えていた。
5年も使うと、カメラはさすがにくたびれてきて、近所の電気屋さんで安くなっていた、 キャノンの一番安いデジタル一眼レフカメラを買うことにした。病院から帰って箱開けて、 その日の夜、布団に入る前までのせいぜい3時間ぐらいの間に、気がついたら100枚以上の写真を撮っていた。
人が猿になる
「デジタル一眼レフを買ったとたんに猿みたいにシャッター押したくなる」現象に、 はたして再現性があるのかどうかは分からないけれど、それに夢中になったことがない人が見れば本当にどうでもいいことに、時々人は、猿みたいにのめり込む。
一眼レフカメラのファインダーは、懐古趣味の光学機器だとばかり思っていたんだけれど、 「レンズ越しの遅延がゼロ」という状況を初めて体験して、行動は大きく変わった。
今まで使っていたデジカメの液晶ディスプレイだって、遅延はせいぜいコンマ秒オーダーだと思うんだけれど、 犬はよく動いて、「ここ」という瞬間にシャッターを切ろうとすると、ごくわずかな遅延が邪魔をして、 なかなかいいタイミングで写真が撮れなかった。
ファインダー越しにのぞいたわんこの顔は「遅延ゼロ」で、「ここ」というその瞬間にシャッターを切ると、 まさに今見た風景が、そこにうつっていた。「シャッター押したら見たものが撮れる」というのが、 こんなに快適とは想像できなかったものだから、気がついたら猿みたいにシャッターを連射していた。
たくさん撮るには快適さが必要
うちから車で1時間ぐらいの場所にドッグカフェがあって、予約をすると、プロのカメラマンが犬の撮影してくれる。
予約が必要だから頼んだことはないんだけれど、説明書きには、「2時間で1000枚ぐらい撮る」のだと書かれていた。 とにかくたくさんの写真を撮って、あとから飼い主さんと写真を選んで、100枚ぐらいを譲ってくれるらしい。 きれいな写真を撮るにはやっぱり数が大切で、被写体が人間だろうが動物だろうが、たぶん同じ。
以前から、だからカメラを持つときには、とにかく数を撮るように、たくさんシャッターを切るように心がけては いたんだけれど、液晶ディスプレイを見ながらだと、「ここ」という瞬間からのごくわずかなずれが、 シャッターを切ろうと思っても、なかなか押させてくれなかった。
ただ「ボタンを押す」という、ただそれだけの行為においてもまた、快適さというものが欠かせない。 ユーザーの感覚に訴えて、行動それ自体を変えるためには、エンジニアなら「誤差」として切り捨てるような、 ごくわずかな変化、改良みたいなものが、たぶん大きな差として効いてくるのだと思う。
応用
「見たものがその瞬間撮れる」みたいな、エンジニアがしばしば「誤差」として片付ける領域の気持ちよさというのは、ここを追求すると「人が猿になる」現象が起きて、いろいろ面白いことになる。
- 恐らくはAmazon みたいな通販サイトも、すでにわずかになっている遅延をさらに減らせれば、 減らしただけ、売り上げが伸びたり、あるいはユーザーの行動が、 わずかな改良に対して大きく変革する瞬間が出現するような気がする
- パチンコ屋さんなんかはたぶん、たとえばチューリップに玉が落ちて、玉をはじいているお客さんが「当たった」と知覚したその瞬間と、台の下から玉がジャラジャラ落ちてくるまでの時間とを、コンマ秒単位で調整すると、たぶん「コンマ秒」の変化と、そのパチンコの気持ちよさとの間に、何かの相関関係が生まれる
- 今のパチンコは電子制御だから、「遅延ゼロ」とか、あるいは「マイナス遅延」、チューリップを玉が通過したその瞬間から「当たり」体験が始まるような調整ができるだろうから、たぶんどこかに、顧客が「猿」に変貌して、お財布が空っぽになるまでお金をつぎ込むような、そういう領域があるのだと思う
- ゲームセンターのゲームは、「楽しむ」という意味では間違いなくパチンコ以上なのに、それがどうしてだかお金に結びついていない。つまるところ顧客という生き物は、「楽しむ」ためにお金を支払っているようでいて、彼らはもしかしたら、本来的な意味での「楽しみ」なんて、最初から求めていないのだと思う
「判断」は、人を人のままに止めてしまう。「人の楽しみ」をどれだけ洗練させたところで、たぶん「猿の快適感」にはかなわない。もっと単純な、判断というより「作業」に近い行動をと、それに対する反応が、遅延なしで返ってくることが、 たぶん原始的な快適感を生む
「やりたいこと」と「実際にやられたこと」との距離を近づければ近づけるほど、その行為が原始的な気持ちよさみたいなものを生むし、個人の努力みたいなものが、それを近づけるゲームに貢献できる仕組みが作れれば、人は猿になる。
一眼レフカメラにあってコンパクトデジカメにない、たぶんパチンコ屋さんにあってゲームセンターにない、もしかしたらオンラインRPGにはちょっぴりある「何か」というものが、人を猿に変化させる要素であって、それを獲得できたプロダクトというのは、形を変えずに長くそこに止まれるのだと思う。
写真
以下、うちのわんこの写真。大きくなった。





[...] This link is being shared on Twitter right now. @medtoolz, an influential author, said http://bit.ly/1Ud9Qv うちのわんこの写真を載っけた。. Follow the trackback link for all twitter comments on this post. [...]
Posted at 2009.08.28 8:49 PM by Twitter Trackbacks for 一眼レフで猿になる - レジデント初期研修用資料 [xrea.com] on Topsy.com
エンジニアは測定可能なものを誤差として捨てたりしません!
捨てるのは常にマーケティング上の都合です….
Posted at 2009.08.29 4:21 PM by エンジニア
カメラとアマゾンに関してはわかるけど、パチンコの例は見当違い。
遅延を減らすことで快適になるのは、始点が「自分の意思で制御できる動作」である場合じゃないかな。
もし無理やりパチンコを例にするなら、レバーをひねってから玉が出るまでの間の遅延について言及するべき。
Posted at 2009.08.29 11:30 PM by 匿名
たしかに「極める」のがエンジニア、「分かりやすくする」のがマーケッターですよね。。
Posted at 2009.08.30 10:19 AM by medtoolz
たくさん写真を撮るのも、良いのですが、多少の縛りを入れると面白くなります。
100枚以内。
5秒一枚。
焦点距離縛り、(出来れば単焦点、キヤノンならば、50mm F1.8)
開放縛り。
縦画像縛り
モノクロ縛り
等等。
単に簡単にするだけでなく、適度な難易度を設定して、ユーザの達成感、使いこなし感、創意工夫までデザインできれば良いのですが。
その点、測定可能なものを誤差として捨てる事はしません。勿体ないです。
むしろ、測定できない部分を如何にデザインするかに苦慮しております。
コストとマーケットの壁は大きいです。とほほ。
Posted at 2009.08.30 1:43 PM by 普通の電気設計者
単焦点レンズを注文して、今届くのを待っているところなのです。。
Posted at 2009.08.30 1:58 PM by medtoolz
煽っておいて、言う台詞ではないのですが・・・・
レンズに嵌ると大変です。本体よりもずっと大変です。
経験者(進行形)ですから。(苦笑)
Posted at 2009.08.30 2:11 PM by 普通の電気設計者
あふかちゃん、可愛くなりましたね。。。
ペンタプリズムやミラーにそんな意味があったなんて。猿と本能と快感の考察は面白いです。
デジ一眼にもシャッターのタイムラグは存在するはず。でもそれは計算してレリーズを押しているはず。慣れれば。
ダイレクトに人間の脳に次のシーンを予測させるのが、光学ファインダーの強みですね。
Posted at 2009.08.31 12:38 AM by はおはお
今までのコンパクトデジカメだと、「犬と目が合う」瞬間にシャッターが押せなかったのが、今ではそれが当たり前で、当たり前だから、そういう真っ正面からの写真があんまり面白くなくなったという。
ごくごく些細な変化が、人間の態度をずいぶんと大きく変えるんだなと。
Posted at 2009.08.31 8:03 AM by medtoolz
[...] id:medtoolz さんの、 一眼レフで猿になる – レジデント初期研修用資料 の記事よんで、急にデジカメ欲が沸いてきた。 [...]
Posted at 2009.09.1 11:50 PM by FinePix F70EXR購入(でもまだ使ってない) - suVeneのアレ