2009.02.21
見える場所に価値が宿る
たとえば10億円ぐらいするCTスキャンの機械は、カバーを外すと、 そのへんのホームセンターで売られているようなアルミのアングル材で組まれていて、 基板もむき出しで、美しさだとか、精密さみたいな感覚とは遠い。素人である自分たちが、 ユーザーとして「中身」を見ても、CTスキャンには、あんまり価値があるように見えない。
フェラーリの車についている「跳ね馬」の紋章には、けっこうお金がかかっているらしい。 紋章はその代わり、けっこういい加減な固定をされていたり、ボディーを外したフェラーリは、 内部の配線だとか、エンジンやトランスミッションの構造だとか、必ずしも工学的に 突き詰められているわけではないらしい。
素人は「中身」を重視する
以前に「家を一軒自作しました」という日記を読んだことがある。公務員の人が、 材木を削り出すところから初めて、在来工法で、2階建ての我が家を一人で作るお話。
素人が人生かけて作っているだけあって、たとえば屋根裏の断熱材の配置とか、きれいだった。
建築途中の家を見ていると、プロの大工さんの「仕事」というのは時々いい加減で、 断熱材なんかは無理矢理押し込んでる印象。日記を書いていたその人の仕事は丁寧で、 たとえ目に見えないところでも、細かいところまできっちり作り込んでいた。
仕事の丁寧さは、もしかしたらその人は、プロの大工さん以上なんだけれど、 出来上がった部屋の写真だとか、実際にそこに住む人が見る、その家の風景は、 やっぱりどこか、「素人が頑張りました」という雰囲気が残ってた。
顧客が見る風景
顧客の目から見えるものというのは、たぶん想像以上に少ないのだと思う。あるいは顧客は、 そのプロダクトの美しさだとか、精密さを、プロの人みたいに正しく評価できない。
病院のCT スキャンは、そもそも自分たちでは分解できないし、基板の場所だとか、 構造材の組み方だとか、それが果たして「いい」ものなのか、「そうでもない」ものなのか、 判断できない。理解できないから、それが価値を持っているように、認識できない。
顧客の見る風景を見切って、そこをきっちりと作り込むことが、たぶん「プロの仕事」を 演出する上で、大切なのだろうと思う。
CTスキャン は、カバーがなくても動く。プラスチックの巨大なカバーは、機械としての性能には、 たぶん全く貢献していないはずなのに、病院におけるCTスキャンの「存在感」だとか、 何億円もする機械を所有する「満足感」だとか、顧客の意識に最も貢献しているのは、 実際にはなんの役割も持っていない、ただの「カバー」なのだから。
わずかな差が「プロの仕事」を作る
素人は、最初から最後まで、誠実な仕事をする。プロはたぶん、 顧客から見える風景を見切って、顧客の想像する「プロの仕事」を目指して、 自らの投入努力量を配分する。
素人はたぶん、「中身」にも、「外側」にも、同じように注意を払う。 何か作るときには、まずは中身が作られて、最後に外側を仕上げるから、 素人は、「中身」の段階から、丁寧な仕事をする。
素人はその代わり、最初から最後まで、同じ丁寧さで仕事をする。 中身も外側も、仕上げはもちろん、その人なりに丁寧だけれど、ごく些細な瑕疵が 残ったり、あるいは「その程度ならいいだろう」みたいな判断が下されて、 出来上がったものは、丁寧だけれど、素人っぽいものになる。
恐らくは「プロの仕事」に到達するには、こうしたごくわずかな差というものが、 断絶として効いてくる。
顧客の見る風景を見切ること
プロはたぶん、投入努力量のより多くを、「見栄え」に振る。
顧客に認識できないところ、機能に影響のないところは「手抜き」されるし、 プロの人たちは、素人ほどにはいい材料を使えないかもしれないけれど、 建物なら、壁紙の「コンマ数ミリ」の段差はきっちりと合わせるし、料理なら、「味」には 何ら関係ない、料理の配置だとか、お皿の色みたいな部分に、 素人よりもより多くの努力量を投入する。
恐らくはだから、「自らの価値観に誠実な」仕事のやりかたというのは、 「プロではない」のだと思う。
誠実に仕事をしたのに、上司が馬鹿で評価してくれない、という憤りは、 それは「素人」の言葉であって、「プロ」を名乗るなら、「顧客の風景」を最高のものにできるような 働きかたをしないといけない気がする。
それが上司であっても、顧客であっても、自分たちの業界ならば患者さんであっても、 たぶんその人たちからみえている「プロの仕事」は、恐ろしく範囲が狭い。範囲を見切って、 その場所に、「コンマ数ミリ」をきっちり合わせる努力を行って、その人は初めて、「プロ」なんだと思う。
「神は細部に宿る」って言葉は好きです。
外科系でいえば顧客が評価するのは、痛みの有無と傷痕の綺麗さですかねぇ。
Posted at 2009.02.21 5:56 PM by カイル
研修医のころから愛読させてもらっています。
毒と愛に満ち溢れた、研修医を○○す方法マニュアル、
懐かしいです。
今回のエッセイも、非常に興味深かったです。
いい意味でのはったり、と捉えてよろしいのでしょうか?
とくに地方の田舎の医者だと、見た目、とか、
人当たり、って「いい先生」の全てだったりしますからね。
今後も面白いエッセイの数々、楽しみにしています。
Posted at 2009.02.21 6:09 PM by 総合病院のプシ医
求められているものを与えるのがプロということでしょうかね。評価されないことを知っていても自分の満足を優先させる人もいますが、そこは選択なのだと思います。
選択していることを意識できないことは問題だとは思いますが。
Posted at 2009.02.21 6:14 PM by 司法試験受験生
麻酔科ですが・・・そもそも患者さんには覚えてさえもらっていないことも多々あり・・・。
そういった意味では麻酔科に対しての「顧客」とは外科の先生たちだったりして・・・。①いかに手術日の夜中に痛がらないようにしてくれたか、②夜間尿量が確保できているか、③下手な輸液で心不全、呼吸不全を作っていないか。
それが確保できていれば、術中に合併症をおこさなかったとか、予防線を張っていたかはあまり見られないですもんね。。。ま、うちは小規模病院なので外科の先生たちとはうまくいっていますが。
これからも手術終了時の患者さんの「痛くないです」という笑顔と声のために頑張っていきます。
Posted at 2009.02.21 10:08 PM by classicanesthesia
個人的には、このエントリの題名は一人歩きしそうなきがしてちょっと…。
「見える、見えない」「外側、中身」というより、
その「部分」が「(顧客に与える印象も含めて)全体」に与える影響を正確に把握し、
その影響度に応じた作業をするのがプロではないかと。
CTの基板の例で言えば、
その基板のうちの何枚かのキモとなる部分では、
電子部品の配置や配線の引き回しにかなりの気を使っているはずです。
大工さんの例とはちょっと違いますが、
家屋の解体現場で一時的な足場を組んでいる様子を見る機会があって、
作業者の言葉遣いや態度からは想像が出来ないぐらい(←ごめんなさい)の神経質さで、
足場の一段目の「水平だし」を行っていたのが非常に印象的でした。
Posted at 2009.02.21 10:10 PM by 774
[...] 見える場所に価値が宿る – レジデント初期研修用資料 [...]
Posted at 2009.02.21 11:46 PM by 今日のニュース 02/21/2009
免許取立ての頃、スポーツカーが欲しかったけど高くて。
エンジンのトルクとかシャーシの剛性とか燃費はファミリーカーで、ガワだけがかっこいい安い車が欲しかった…って誰かが言ってた。
Posted at 2009.02.22 2:49 AM by 匿名
途中で送信してしまった上に誤字・・・
アップルが製品を作るとき、中の人はユーザーのみる「プロダクト」とそれに見いだされるであろう「アップルらしさ」を考えながら、手を抜いてる。
MacBook Airのキーボードを固定するためにバカらしいネジの使い方をしているのも、MacBook Proが量産効果が出にくい作られ方になるようにしたのも、多分彼らが持ってるブレインリソースを有効に配分した結果で、
「それに見いだされるであろうアップルらしさ」が顧客に少しの驚きと多くの感心をもって受け入れられて、かつ「手抜き」がその魅力を奪わないときに多分製品は「成功」するんだと思う。
「らしさ」は少し前は「ユーザーエクスペリエンス」だったりする。
Posted at 2009.02.22 6:21 AM by icloud
「ユーザーの見る風景」に何を想定するのかで、設計ポリシーみたいなものは、大いに影響を受けるのでしょうね。。
それに向けてきっちりと作り込んだ製品は、その風景を見た顧客の支持を受けるのでしょうし、そういうのを考えないで、
漠然とした「よさ」だけを目指した製品は、恐らくは中途半端なものになってしまって、だれも買わないような。
Posted at 2009.02.22 11:11 AM by medtoolz
[建築]プロは機能に価値を宿す
見える場所に価値が宿る – レジデント初期研修用資料 建築途中の家を見ていると、プロの大工さんの「仕事」というのは時々いい加減で、断熱材なんかは無理矢理押し込んでる印象。日…
Posted at 2009.02.22 4:54 PM by concretism
優秀なソフトウェア制作者にもびっくりするほど当てはまります。
「神は細部に宿る」といいますが、その細部というのは、ユーザーが知覚する細部なんですよね。
Posted at 2009.02.24 9:30 AM by hau
先日新しいlow profileバルーンの宣伝があったんですが。
アクリル円柱の中に血管腔を模した孔、直径1・数ミリ段差付きが開いていて。
曰く。
このバルーンはこの段差に透視のマーカー部分でひっかかりますね。
弊社の新製品は同じ径、肉眼的には見た目同じ。
なのにするっと通るでしょ。
CAD使ったレーザー加工技術の精度からすればすごくもないことなんでしょうが。
宣伝効果を最大限にアピールするべく、狙ったサイズにきっちり孔を刻んだ広告企画マンと技術者に、新製品に対してよりもむしろ感心。
Posted at 2009.02.27 2:31 AM by 匿名
いつも楽しく読ませていただいてます☆
「神は細部に宿る」というのはその人の人間性を構築する見えない部分のことかもしれません。
麻酔ワゴンの上がぐちゃぐちゃな麻酔科医は麻酔が下手
ベッドサイドを整えない、患者のケアが行き届いていない看護師はベテランとは言えない。
器械台が整っていない器械出しNsは先読みができない
準備がいい加減、後片付けのできない人は段取りが悪く、急変に対応できない。
当たり前すぎて一見関係ないことかもしれませんが、気が抜けた後ろ姿を案外人は見ていて判断されている、、、。
怖いけど、ちょっと気遣ってほしいな?と思ってます。
Posted at 2009.02.28 7:45 AM by 魚出はな