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2009.01.05

メイドロボットを開発するセンス

「夢の扉」というテレビ番組に、東大でロボットを作っている研究室が取り上げられていた。 手足と頭のついた、本物の「メイドロボット」作っていた。東大なのに。

シンプルな問題を複雑に解く

メイドロボットは、人よりも一回り大きなサイズで、二本の腕と、車輪と頭がついている。 部屋の中にある家具をあらかじめ登録しておくことが必要で、室内の家具の位置を認識して、 ロボットアームでモップを持って、部屋を掃除する。

ロボットの動作は極めて複雑で、バックグラウンドに投入された技術はすごいのだろうけれど、 発想が足りない気がする。「発想」というものは、「洗濯をする機械を作る」という問題を、 「水を攪拌する機械を発明する」と言い換えることであって、掃除するロボットをそのまま作るのは、少し違う。 自立して動く掃除機ならば、もう何年も前に市販されていて、お掃除ロボット「ルンバ」のパチモノなら、 今はもう、ホームセンターで2 万円しない。

東大発の「メイドロボット」は、人間のようにモップを持ったり、洗濯機のスイッチを押すことができたり、 それはたしかにすごいことなんだろうけれど、進歩というよりは、後退に見える。工学畑の技術者ならば、 本来は「掃除のいらない床」だとか、「スイッチのいらない洗濯機」を目指すべきであって、 メイドロボットを考えてはいけないのだと思う。

複雑さはセンスじゃない

番組後半は、「台所ロボット」が主役として取り上げられる。まだ未完成のロボット。

お皿が持てなかったり、お茶碗を割ったり、台所ロボは、番組の中で失敗を繰り返す。 研究室の先生がたは、そのたびにパソコン叩いて、 細かいパラメーターを調整する。番組終盤、調整だけでは追いつかなくて、 ロボットには「画期的なセンサー」が搭載されて、最後は見事にお皿をゆすぐ。

東大の先生がたは、たしかに非常な努力を注いでいるのだろうけれど、 「微調整」だとか「センサー追加」というやりかたは、工学的にはやっぱり悪手に思える。

センスというのは、絶対に残すべき何かと、削除すべき何かを区別して、 それを予見できることなんだと思う。

目についた問題点全てを「改良」するやりかた、複雑に見える問題を、 複雑なままに解決しようとするやりかたは、 間違いなく「努力」ではあるんだろうけれど、「センス」とは違う。

昭和50年代の初め、あるいはもっと昔、星新一と小松左京との「新春対談」という企画があって、 「未来の食品」なんてお題が出たらしい。

司会を勤めた編集者は、未来の食品に「一粒でお腹いっぱい」のイメージを投影していて、 作家は2 人とも、「いくら食べても太らないゼロカロリー食品」に未来を見ていた。 司会の人はそんな未来を予期していなかったから、大変だったらしい。

司会の人にとっては、現代の食事から削除可能なものは「食事の体験」であって、 譲れないものは「カロリー」だった。SF 作家にとっては、未来になっても譲れないものこそは食事の体験であって、 カロリーは、SF 作家が見通した未来なら、いくらでも代替手段が考えられるから、むしろ真っ先に削除すべきものに 見えたのだと思う。

東大の先生はどうしてメイドロボを作ったのか

ここから先は邪推。

東大の先生がたは、恐らくは研究を評価する人達の「センス」を信用していないのだと思う。

「センスのある解答」というのは、未来にいる自分達から見れば自明であっても、 作家同士の対談が行われた昔、その人達とともに暮らす人にとっては、 予測不可能だし、解答が示されても、もしかしたら理解しにくい。

微調整と、センサー技術の塊として示された「台所ロボット」は、 たとえばあれが、子供用のおもちゃみたいな、モーター2 つにセンサーなし、 バネ仕掛けだけで立派に皿洗いをしてみせるロボットアームなら、それを見た研究者は、 「さすが東大だ」なんて、そのセンスに驚くような気がする。

ところがそうしたセンスが生む成果はシンプルすぎて、外から見ると「おもちゃ」にしか見えないから、 「夢の扉」を放送する人達は、あるいは取材に来なかったかもしれない。

東大発のメイドロボは、たぶん東大の先生がたなりの、センサー技術がもたらす未来の、 非専門家向けの「翻訳」、あるいはたぶん、巨大な「疑似餌」なのであって、東大の先生達は、 疑似餌を公開してみせることで、何かもっと大きなものを釣ろうとしている。

大学だってお金が必要だから、「釣り針」が投げられた先にいるのは、 科研費を握っている文部官僚の人達。東大の先生がたは、莫大な予算を投じて、 あんな「疑似餌」を作ってみせるぐらい、科学振興費用を 分配する人達の「センス」を信用していないのだろう。

「東大がメイドロボを作った」という事実は、だから文部官僚に対する研究者の不信がそれだけ進んだ証拠であって、 「センスのある、だからこそ分かりにくい本当の新技術は、今や見返りが全く期待できないのだ」なんて、 そんなメッセージなんだろうと思った。

Comment & Trackback

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「ここから先は邪推」と書いておられますが、読ませていただきますと、とても説得力がありさもありなんと思ってしまいました。

本年も拝読させていただきます。

どうぞよろしくお願いいたします。

ロボットでサッカーをすることを目標とするソニーのロボカップを思い出させますね。サッカーのできるロボットを開発する本当の目的は、ロボットとサッカーをするためではなく、サッカーのできるようなロボットを開発する間に生まれるであろう技術革新であるそうです。分かりやすい目標を上げて、トップダウン式におおまかな研究進路を示すことで、技術的研究は進みやすくなるらしいです。きっとメイドロボットも本当の目標はロボットのメイドをつくるということではないのでしょう。

邪推の部分、研究には研究室の学生の奪い合いという面でのアピールも必要なのかなと思いました。そういう意味では、学生に対する不信もありそうですね。メッセージは一緒ですが。

[...] メイドロボットは、人よりももう一回り大 きなサイズで、二本の腕と、車輪と頭がついている。部屋の中にある家具をあら かじめ登録しておくことが必要で、室内… original article [...]

[...] メイドロボットを開発するセンス - レジデント初期研修用資料 (tags: science government research) [...]

大学研究の目的は可能性の探求なのだからセンスとかそういう問題ではないと思うし、汎用性のあるロボットの研究でもいいと思う。
「掃除のいらない床」だとか、「スイッチのいらない洗濯機」は家電メーカーの仕事だ。

御記載の中の『工学畑の技術者ならば~』のくだりは『本来は疾病の予防を考えるべきであって、治療を考える事ではない』と仰っているようなことではないですか?

邪推の部分に関しても、別の推論をしてみます。
思うに、「すでにヒトが当然の生活環境として確立している場所で活動し、その環境内のヒトを手助けする」ことが「メイドロボット」の本来の目的なのではないでしょうか。
ヒトが既にアタリマエに生活している環境で、ヒトがアタリマエに使っているutensilsを用いて(ロボットの助けを得るためにロボット用の道具を追加で必要としないで)、ヒトの生活を手伝うことが目的ならば、ロボットの側をヒトに近づける発想になるのではないでしょうか。
すでに暮らしているヒトと、そのヒトが慣れ親しんでいる環境を出来る限り変化させない事を目指せば、おのずからロボットをヒトに(サイズ、機能、道具の使い方などの点で)似せる方向に進まざるを得ないと思います。

在宅介護のために、バリアフリー新築を薦めることをいきなりしませんよね?慣れた環境をベースに介護用の改装をする事がむしろ多いですよね?
(っていうか、まさしくそういう環境でこのロボットは使えるようになるんじゃないのかな?)

考え方(メイドロボットが必要とされる前提)を変えるとものの見方も変わりませんか?
まぁ、NHKが開発思想・目的を視聴者に伝える事が出来ずにいたのなら仕方ないのでしょうが….

いろいろ難しいですね。。

本筋ではありませんが、明らかなる勘違いですので横から失礼。

>まぁ、NHKが開発思想・目的を視聴者に伝える事が出来ずにいたのなら仕方ないのでしょうが….

番組は書いてあるように『夢の扉』で、放送日時は 1/4 18:30 - 19:00 。放送局は TBS です。NHK ではありません。
これだけではなんですので。

一応、番組冒頭のあらすじ紹介っぽいところで「少子高齢化に期待されるロボットとは」という一言がありましたが、印象は薄いです。
他、『少子高齢化の時代に役に立つためのロボットを開発しています』のような『研究目的の紹介』が1分ほど番組前半にあります。そこから洗濯物を洗濯機に「ロボットが」入れる、などの研究結果の紹介となるのですが、ここでCM。(6min /30min)
という番組の作りでした。
その後も『なぜ人型にするのか』についての解説は放送中にはありませんでした。
以上、ご参考までに。

文部官僚を釣るための疑似餌というわけでもなく、文部官僚が
「釣り」に荷担していると言えなくもないと思います

>東大のIRT研究機構は、文部科学省の科学技術振興調整費
>「先端融合領域イノベーション創出拠点」として、東大を中核に
>トヨタ自動車、オリンパス、セガ、凸版印刷、富士通研究所、
>パナソニック、三菱重工業の7社が参加し、2006年度から
>10年計画で取り組んでいる大規模な産学連携プロジェクト。
http://www.i.u-tokyo.ac.jp/news/ist/081028_2.shtml

文部科学省が釣りに荷担しているというのでないのならば、
東大のセンサー技術に目を付け、メイドロボットに先行して
お金を出したと言うことになりますね。

ちなみに言えば、私はハインラインの夏への扉が大好きなので、「東大のメイドロボット」を見ると、万能フランクを思い出して胸が熱くなるのです。時代がようやくハインラインに追いついたなと。

もっとも、あれは五十年前の作品なので、それだけ時間がたっているのであれば、より斬新な方向からのアプローチを行ってもいいのかも知れません。

東京大学が、こうした応用方面で旗振るのも、時代なんですかね。。
何となく「東大」なんだから、応用をやる人達を尻目に、基礎技術に走ってそうな先入観持ってました。

ロボットや人工知能というのは、問題すら見えていない部分が多いので、目的に合致したモノを作るというよりも、モノを作ることによって問題を発見しようという意味合いが強いのだと思います。
こんな基礎研究は企業ではやりづらく、大学だからこそできる研究だとも言えます。

「家庭にメイドロボが来たらどうなる?」という実験も、確かに基礎研究なんですね。。