2008.12.15
専門家は結論を出せない
病院は「(開業医は)患者を救急搬送したら、墨東に入って手伝ってほしい」と提案した。
開業医たちは「なぜ医師を補充しないのか」「公立病院の責務はどうなったのか」と反発し、
議論は2時間半に及んだが、具体策は決まらなかった。
毎日新聞ニュースより引用
墨東病院産婦人科を今後どうしていけばいいのか。昨年行われた、 病院のスタッフと、地元で開業した人達とが集まっての話しあいの記事。
政府だとか、行政の人達、現場をろくに見もしない素人が提案する「政策」なんてものはたいてい的外れで、 現場にとってはむしろ有害なことが多くて、だからこそ、現場を知り抜いた専門家が、集まって話しあう。
集まって、話しあって、開業医側は、「俺たちにもっとおいしい患者を回して、 墨東は文句言わずに厳しい患者を受けろ」なんて意見。そもそも墨東病院に手が足りてないのは 誰が見たって明らかだから、墨東側は「手伝って下さい」なんて、当たり前のこと言っただけなのに、 結論のでない泥仕合になって、現場を知ってる専門家は、お互い話しあった帰結として、 「政府はいったい何をやっている」なんて結論を出した。
いろんなところでグダグダしてる
新型インフルエンザの対策も、病院施設長同士の話しあいが去年から続いていて、結局何も決まっていない。
これなんかはむしろ、行政側は「どうしていいのか分らないからお願いします」ぐらいのスタンスで始まったのに、 地域の大きな病院が、公立市立問わずに集まって会合開いて、「先生のところ、リーダーどうです? 」なんて、 もう2 年間も譲りあいを繰り返してる。
大学に残る研修医は、今年もまた減ったらしい。
自分達の頃、残る研修医が100人割り込んで、「大変だ」とか騒いでたのに、対策をどうするとか、 何か新しい研修カリキュラム作るとか、誰か「客寄せパンダ」的な、有名な先生を講師として招聘するとか、 そうした試みは一切なされないままに時は過ぎて、年を重ねるごとに、残る研修医は半減を繰り返してる。
専門家同士のグダグダというのは、何となく、うちの業界だけじゃなく、 あらゆるところで共通なのかな、と思う。
「声の大きな素人」が専門家を統治する
道路行政はある時期、専門家でもなんでもない、ルポライターの猪瀬直樹氏が仕切ってた。
安倍内閣時代の「教育再生会議」には、「ヤンキー先生」をはじめ、やっぱり教育の現場とは それほど縁のなさそうな人達が集められて、政策を提言してた。
道路の業界にも、あるいは教育の業界にも、現場のことをよく知る専門家がいて、 問題を抱えた政府の人達は、最初はさすがに、専門家の助力を求めたはず。
専門家が集まって、たぶんグダグダするばっかりで、もしかしたらあまつさえ、 「政府はいったい何をしているんだ」なんて「結論」が専門家から提出されて、 政府はどこかで、専門家を見限ったのだと思う。
専門家から「これは政府の問題」だなんて、問題を返されたら、もう専門家には頼れない。
政府はだから、どう見ても専門とは遠い、ただ声が大きいだけの「素人」を招聘して、 アドバイザーとして、彼らの声を頼らざるを得ない。
恐らくはこういう構図は、「専門的な」あらゆる業界で繰り返されて、これから先、増えていく。
素人を笑えなくなると思う
医療の業界は、どこを見渡しても「今すぐどうにかしないといけない」なんて切迫した問題ばっかりで、 今のところはまだ、問題を解決するために、現場を知ってそうな専門家が招集されている段階。
専門家がこれからいろいろ話しあって、やっぱりそれで結論が出せなかった分野については、 今度はたぶん、「現場を知らない素人」が集められて、現場の専門家は、その人達の考えかたを押しつけられる。
あと数年もしたら、医療のどこかの分野には、タレントの西川史子 氏だとか作家の久坂部羊 氏、 あるいは「医療ジャーナリスト」の伊藤隼也 氏あたりがトップに君臨して、 「専門家」は彼らに頭を下げて、自らの考えかたを奏上して、ありがたく予算をいただく、 そんな時代が来るような気がする。
「現場をよく知る専門家」というのは、たぶん誰か素人にお尻を蹴飛ばされないかぎり、 頭抱えて、ずっと悩んで動けない。自らはまり込んだ穴から、自力で抜け出せるといいのだけれど。

というか、これからくる『本当の産科崩壊』については誰もふれないのね。
Posted at 2008.12.15 4:56 PM by heimlich
お尻の写真を追加してみました。。
Posted at 2008.12.15 5:29 PM by medtoolz
猪瀬直樹を小説家とするのはちとミスリードな気が。ほんのちとだけど。彼はむしろルポライター。ルポも小説っちゃ小説と言えるかもだけど。
「声の大きな専門家」は出てこんのか。出てきたら出てきたで、それは問題かもしれないけど、善政をしける人間が快刀乱麻で問題を解決していく様が見たい。
Posted at 2008.12.15 8:33 PM by e
追記しときます。。>ルポライター
ありがとうございました。
Posted at 2008.12.15 8:43 PM by medtoolz
決断は素人にまかせろ!
それで、正しい。
専門家は結論を出せない – レジデント初期研修用資料専門家がこれからいろいろ話しあって、やっぱりそれで結論が出せなかった分野については、 今度はたぶん、「現…
Posted at 2008.12.16 1:29 AM by 404 Blog Not Found
政治家(非専門家の素人)は、ゴールを示す存在であるべきだと思います。「最後はここに着地してくれ」っていう。「そのためなら予算を出す/○○は切っても良い」などの話も同時に出せるのならもう言うこと無しです。専門家が苦手なのはここですよね。
そして、ゴールまでのいい道筋を考えるのが専門家の仕事なんでしょう。逆に、道筋まで素人が口を出すとろくなことがありません。
そのあたりの切り分けが、今はあちこちで上手くいってないと。誰も責任を取りたくないのでしょうね。恨まれたり訴えられたり叩かれたりしますし。
→「果敢に決断し、責任を負って挑んだリーダーの失敗」に対して寛容な社会であることが必要なのかも知れません。
Posted at 2008.12.16 9:59 AM by hau
いつもおもしろく読んでいます。
今回の件、ジャンルによっては少し事情が異なるのでは。少なくとも教育に関して「教育再生会議」は、結局無駄で有害な提言しかせず、何も形にできないまま解散しました。あれは「素人が専門家ぶろうとした失敗」なのだと思います。
教育に関しては、本当は明白な結論(僅かな金と人を余計にかければ好転)があり専門家は口をそろえてそれを訴えているのに、あらゆる理由・言い訳でもってそれを回避する素人が政策を迷走させ、しかも無茶を言っても結果検証が難しいため言いたい放題、という状況があります。教育の問題というのは本当は全然難しくない話なので、道路行政や、医療の世界とはそこが違うのでは。
素人と専門家が分業すべきだという意味では、一理あると思います。両者の役割をハッキリさせるという意味では、専門家が決断できないことを決断する素人というのはもちろん必要だと思います。まあ、それを普通は「政治家」というのだと思いますが。
Posted at 2008.12.16 5:27 PM by jo
結論を出す専門家、決断する専門家
これからの時代に求められているモノかもしれません。
仕事がら、交通事故の損害賠償や医賠のアドバイスをしていますが、
「ああでもない、こうでもない。こういう可能性もある」
という正確で、結果的に曖昧なアドバイスよりも、
「こりゃ駄目だ。病院に勝ち目はないから、さっさと示談しろ」
「この疾病と交通事故には因果関係なしだよ」
というアッサリした助言の方が喜ばれるような気がします。
Posted at 2008.12.17 6:25 AM by エリヤフ先生
よーするに、専門バカ、っつーことですよね。
専門性はあるけど、全体を俯瞰し、ビジョンを描けない。
それって、専門家ではあるけど二流ってことでは?
一流の専門家は、全体を俯瞰することもできるので。
決断ができない専門家ってのは
矛盾を含んだ言葉ですよね。
決断さえできないなら、何が専門家だっつーの、と思いますが。
Posted at 2008.12.17 9:27 AM by 専門バカ
いずれにしても、西川史子女史を笑うものは、たぶんそのうち、彼女から哄笑されることになるのかな、と。。。
Posted at 2008.12.17 12:39 PM by medtoolz
大熊由紀子教授なんかすでにその位置(立場)にいるようないないような
権丈先生が「困った素人」論をいろいろ書いているのをいつも読んでいますが…
Posted at 2008.12.17 9:40 PM by 匿名希望
むしろ、逆なのでは・・・・? つまり、専門家と呼ばれている人がエセ専門家だからだと思うのですが。真の専門家なら、話し合いで一定のコンセンサスを得るのはそう困難でなく、方向性はそれなりにまとまるのでは。つまり、決定権のある専門家でエセなので、決断力がなくどうでもいいような既得権益や利権に目が行ってしまうと。医者でも、どーでもいいようなことをウジウジと考えて、いつまでたっても治療方針が決められない、コンサルテーションなんぞしようものなら何も決まらずストレスだけ与えてくれるようなヤツっていますよね? まさにそんな感じ。
一流のプロスポーツの監督なら選手交代の決断も早いし、トヨタだってそこらへんの自治体よりずっと大きな組織なのにきちんと機能している。。。。
スポーツでも経営でもプロが仕切ると物事は順調に進みますよね?
Posted at 2008.12.19 3:17 AM by JFK
本物のプロはどこにいるんですかね。。。
Posted at 2008.12.19 4:51 PM by medtoolz
せいぜいが一兵卒や小隊長レベルの専門家に
有効な国家戦略ひねり出せって言っても無理だよなぁ
でもあとは素人と機能不全(?)な大本営しかない、と・・・
Posted at 2008.12.19 6:41 PM by 匿名
本物のプロの定義って、、医者は免許持っていれば全員プロですし。。医者以外は素人。ですか。
実際は専門特化し過ぎているので医者でも「カテ屋さん」とか「内視鏡のプロ」とか専門分野のスター医師はいますが、、、得意でない医療分野になると。。よく勉強した「患者さん達」以下だったりして。。 「医者のプロ」って、同業者にも、あらゆる患者さんにも適切な対応をとれて、トラブルシューティングもできる医師でしょうか。。。
Posted at 2008.12.19 7:15 PM by 黒猫
医療行為でお金を貰っている人はみんなプロなんだけど、「プロ意識」持って毎日診療している人が少数派で、、、。
Posted at 2008.12.19 7:18 PM by 黒猫
>>本物のプロはどこにいるんですかね。。。
捜せばいるような気がします、多分。それは霞ヶ関や白い巨塔に篭もっている連中ではないとは思いますが。ただ、そういった、財務省とも堂々とネゴシエーションできるようなプロを発掘し、育成しなくちゃならない程、事情が緊迫していないとも思うのです(というか周りがそう思っていない)。だから、適当な人選で適当な結論を出してお茶を濁すにだと思います。
>>医療行為でお金を貰っている人はみんなプロなんだけど、「プロ意識」持って毎日診療している人が少数派で、、、。
「社会主義」ではなかなか本物のプロは育たないですよね。。。。ノルマの100本のコーラを売れば101本目は売る必要のない環境ではなかなかプロは育ちません。
Posted at 2008.12.20 10:56 PM by JFK