2008.12.09
「コンマ秒」の改善が人の振る舞いを変える
待ち時間を短くすると、みんな「便利だ」なんて思うけれど、人の振る舞いは、そんなに変わらない。 短くなった待ち時間をさらに短く、「ゼロ」に向けた最後の最後、ごくわずかなその改良が、 しばしば人の振る舞いを一変させる。
YouTube がもたらしたもの
ライターの渡辺祐は、「アレってどんな曲だったかなあと思ったら即、YoutubeとiTunes Storeでリサーチします。 CDラックまで行かずとも調べ物ができるのが、締め切り前など特にありがたい」なんて、 YouTube 以降変化した、自らの振る舞いを語っている。
プロの評論家はもちろん、手元にオリジナルの音源を持っているのだろうし、 恐らくは自宅には、参考文献だとか音源だとかが山と積まれた書庫があって、 ちょっと歩けば膨大な資料に当たれるんだろうけれど、 インターネットとYouTube を利用すると、机から書庫に向かうまでのほんの数秒を節約できる。
YouTube のもたらしたものは、ほんの数秒の変化でしかないはずなのに、 「書庫を漁って何か書く」という、ステレオタイプとしての評論家の振る舞いは、 恐らくはその数秒によって、大きく変化したのだと思う。
「コンマ秒」の改善が行動を変える
google デスクトップサーチは、Ctrl キーを二連打するだけで、ネット検索を行うことが出来る。
このホットキーが提供するのは、たかだか2クリック分の節約。
ブラウザを立ち上げる手間を省くだけのことだけれど、自分についてはもはや、 「検索」といえばCtrl キーの連打であって、ブラウザを立ち上げて何かするという動作は、 目的が検索である限り、ほとんど行われなくなってしまった。
ソフトバンク携帯についてくる 「Yahoo! 」ボタンも、恐らくは似たような変容をもたらすんだろうなと思う。
ソフトバンク携帯の機能にこだわって購入した人だとか、あるいは料金プランに魅力を感じて購入した人なんかは、 ボタンを無視して好きな検索サイトを選ぶかもしれないし、あまつさえ、あのボタンを「邪魔だ」と感じるかもしれないけれど、 携帯電話にそこまでのこだわりを持たない、たぶん8 割ぐらいのユーザーは、検索といったら「Yahoo! 」ボタンを 押すことを刷り込まれていて、今さらもう、その行動は変えられない。
あのボタンを有料化する試みは、「蒔いた麦を刈り取る」やりかたとしては乱暴に過ぎるきらいがあるけれど、 たぶん多くの人達は、文句も言わずにYahoo! ボタンを押して、料金を支払う気がする。
「コンマ秒」の改善で変化した行動は、ときにはもはや、 それが為される以前のことを忘れてしまうぐらいの変化をその人にもたらして、 わずかな障害ぐらいでは、もう行動は元に戻らないだろうから。
わずかな改良は予想しにくい
1時間あった通勤時間が30分になったら、生活は相当便利になったと感じる。30分が10分になると、もっと便利になるだろうと思う。ところがたいていの人は、「10分が1分になる」なんて言われても、その世界が「すごく便利になる」とは考えない。
「1時間が30分」の変化は理解しやすいけれど、「10分が1分」によって起きる変化は予想しにくいし、 あるいはたいていは、「そこまでしなくてもいいよ」なんて思う。ところが最後のごくごくわずかな変化、 「1分 」の改良は、しばしばその人の生活スタイルを一変させて、生活には、 「通勤」という考えかたそれ自体がなくなってしまう。
田舎の病院で、ほとんど「住み込み」で働いていると、生活から通勤がなくなる。
「通勤時間ゼロ」に慣れると、忘れ物をしないように気をつけるだとか、 大事な書類を揃えておくとか、そういう感覚が無くなる。昼休みにはちょっと寝に帰れるし、 忘れ物しても、白衣を脱がずに取りに行ける。生活の中から「通勤」という、 後戻りの出来ないコンポーネントが完全に欠落して、社会復帰するのが大変だった。
恐らくは「革命」が起きるためには、最後のごくごくわずかな改良、「1をゼロ」に近づけていく 領域でのあと一歩が必要なのだけれど、その「わずか」は、1時間を10分にまで縮めてきた人にとっては、 しばしば誤差として認識されて、改良の手は、そこで止められてしまう。
世の中にはだから、「1時間を10分」にまで改良されたものがたくさんあるけれど、「10分を1分」、あるいは「1分が1秒」にまで突き詰められたものは少なくて、世の中にはたぶん、「革命」をおこす余地は、まだまだたくさんあるような気がする。
当たり前のものをゼロにする
会計をしなくてもいい売店が出来たら、生活が変わる気がする。
会員制にして、全ての商品にRFID タグを付けておいて、 お客さんはほしい品物を勝手に持ち帰って、会計は銀行で引き落とせるようなしくみ。
お客さんが、商品を思い思いに「万引き」しているような風景になるけれど、こういうスタイルになれてしまった顧客は、もう後戻り出来なくなるし、「会計」というものが生活から排除されると、恐らくは財布のひもがゆるむ気がする。
一番最初の「会員になる」部分がネックになるけれど、たとえば病院の売店がこのシステムになるならば、 患者さんの身分はみんな明らかだし、退院の時に「精算」できる。ホテルなんかも同じことが出来る。
あるいは「診察の要らない病院」。
「頭痛セット」とか「風邪薬」、「不眠セット」とか「胃薬」なんかを2週間分、とりあえず病院に来て、「眠剤下さい」なんて頼んだら、ごく簡単な問診のあと、とりあえず薬をくれるようなやりかた。歩いてくるような大多数の人はこれで十分なはずだし、 それに慣れた人達は、もしかしたら「病院で待つ」という、当たり前と受け止めていた動作それ自体に疑問を持つようになる。
そういう人が増えてくれば、もはや伝統的な外来診療、元気な人に、さもありがたそうに問診して、 2週間ごとに馬鹿高い受診料請求する、欺瞞的な商売モデルそれ自体を吹き飛ばせるかもしれない。
「待たなくていい料理屋さん」なら、世の中にはすでに、回転寿司とバイキング方式の食堂という、 画期的に成功したモデルがすでに存在している。病院が果たすべき役割のある部分は、 「回転寿司」方式でも、十分いけると思う。
世の中にはたぶん、「1分待つ」場面がたくさんあって、その1分はしばしば、 「しょうがない」とすら思われず、当然のものとして認識される。当たり前すぎて、 改良の意欲も湧かない、そんな1分を削る発想は、あるいは世の中一変させるチャンスなんだろうなと思う。
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Posted at 2008.12.10 12:59 AM by 次なるもの » Blog Archive » 「コンマ秒」の改善が人の振る舞いを変える - レジデント初期研修用資料
目から鱗が落ちるようです。現実には、1時間を30分に、10分を1分にするための投資(人的資源の投入、資金等)は得られても、1分を0分にするための投資に理解が得られるかと考えると、この手のものはベンチャー的・ゲリラ的に進めざるを得ないのかもしれません。
Posted at 2008.12.10 12:53 PM by ちいちゃん
医療はだめだろ。風邪薬や目薬がただほしいなら市販薬はどこでも買える。そんな病人じゃないから医者に行くの。いってることはわかるけど、革命の余地がいくらもある事は多くの人がわかってる。ただその余地を発見・改善してサービスに落とし込むのがとたんに難しいってこと。
Posted at 2008.12.10 6:49 PM by makoto
最近?昔から?批判的なコメントが多いですが、medtoolz先生、気にしないでバンバン書いてください。私は、エントリとそれに付随した「建設的なコメント」「建設的な批判」を読みたい。ただの感想文は、消していいんでは?(私のコメントはあまり建設的ではないので消されるか??)
Posted at 2008.12.10 11:25 PM by たぬき
滞在型リゾートあたりでは全ての精算がタグ一つでできますもんね。あとはそれを街中に持ち込んだときのクレジットとセキュリティでしょうか。それこそ光彩などの生体認証になるのかも。
Posted at 2008.12.11 1:20 AM by hau
診察の要らない病院>
は難しいでしょうね。。診察、薬代が安くなると、「偽薬効果
」も低くなりますし。さらに、医療の宗教的側面、「わざわざ病院へ行き、沢山の人々と長い時間待ち、医師の診察を受け、検査をされ、投薬される」ことは儀式でありこれなくしては「医療」という宗教活動はなりたちません。。
プラセボが効かなくなると治療効果も下がります。。「希少性が高い」とか「高名な先生」とか「高度な医療機器」とか「高価な薬」とかがそれ自身意味を持ち、強力なプラセボだからです。
自販機とかで薬が缶コーヒーみたいに買えても「治療効果」も「満足度」も低いでしょう。。コーヒーと薬の原価は同じだとしても値段を高くし、手に入りにくくすることに意味があるのです。。
あと「医療」は「医師」によって行われて初めて「医療」になるのであり、「医師以外」の行為、言動では「医療」と認識されません。。「医師」は医療知識を持っているかどうかではなく、「医師として認識されているか」ですから「医者としての技量、知識、経験」よりも「それらしく見える」事が重要です。。だから、聴診器、白衣、打鍵器などのアイテムや聴診、触診、問診は欠かせません。
Posted at 2008.12.11 11:34 AM by 黒猫
待ち時間と診療という儀式要素があるからこそうまく行く側面と、それをなくしてみたとき、どんな世界が見えてくるのか、それに対する興味とが半分半分だったり。。
Posted at 2008.12.11 12:27 PM by medtoolz
患者さん達のモラル低下が激しくなれば、医療は「自動販売機とかユニクロみたいな低所得者向け」と「一見さんお断りの富裕層向け」に二極化するんだと思います。。「元気な患者さん」に使うコスト、時間がもったいないという思いは僕も持っています。。
というか、僕は救急医療とターミナルケアに疲れちゃったので、、現在はセカンドオピニオンと予防医学中心とした「一見さんお断り」の分野中心に避難して働いております。(_ _)
スミマセン
「本当は救急でない救急患者」とか「医療費タダだから薬もらいに病院に来る小児科の患者」とかに使うコストを削減するためには「自動化」は良い策かもしれませんね。でも、医師法の改正が必要ですし、そうなったとしてもアメリカのERみたいな施設を作らないといけなくて結局救急医療は大混乱かもです。。でも、将来的には医師数も確実に増えますから、医師過剰が顕在化してきたら、あふれた医師が「24時間コンビニ医療」に参入して、、「質と量」に二極化確実だと思います。。
Posted at 2008.12.11 1:36 PM by 黒猫
家庭用メイドロボに
ホームドクターver.3.5をインストールすると
立派なホームドクターのできあがり…
なんて時代が…来るわけ無いですね。
Posted at 2008.12.12 3:24 PM by ヘッポコ技術屋
>ソフトバンク携帯についてくる 「Yahoo! 」ボタンも、恐らくは似たような変容をもたらすんだろうなと思う。
その通りの行動をしています。bookmarkしなくなりました。
①Y!ボタン押下②検索ボックス押下③レジと入力 →予測変換でレジデント初期研修用資料 まで自動表示 ④検索ボタン押下
の4手間です。
携帯は常にそばににあるので、PCのある部屋にいても、
①立ち上がる②PCデスクに座る③(スクリーンセーバ解除のために)何かキーを押す④検索窓クリック⑤入力
の5手間に勝ります。てか、①の心理的負荷が高いだけなのですが。
Posted at 2008.12.12 5:00 PM by ちろりん兄@カウチポテト
予測変換は、一度使うと戻れなくなりますよね。。。
Posted at 2008.12.14 8:36 AM by medtoolz
Adobe Acrobat の立ち上がりが遅いので、メールに添付された pdf ファイルを開けることはあまりありませんでした。
でも、
「新しいバージョンの Acrobat は瞬間的に立ち上がるので pdf ファイルが苦ではなくなった」
と、知り合いの先生から聞きました
似たような話ですね
Posted at 2008.12.17 6:30 AM by エリヤフ先生