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2008.10.28

嫉妬が生みだす公正な社会

田舎の常で、マイナーな漫画本だとか、ハヤカワのSFだとか、本屋さんにほとんど売ってない。

最近はだからAmazon ばっかりだけれど、発注かけて、題名検索して、実物手に入る前に海賊版が 見つかったりすると、なんか落ち込む。

海賊版は便利

特によく売れている漫画本は、発売されてから10日もすれば、たいていは世界の誰かが海賊版を作る。

漫画の題名と、よく知られているダウンロードサイトの名前と、検索ワードに両方入れて検索すると、 英語圏だとか中国だとか、たいていはどこかのサイトが引っかかってくる。

日本の漫画家が、漫画を書いて本を出す。

海外の誰かが、それを購入してスキャンして、ダウンロード可能な形で、アップローダーに上げる。

恐らくはどこかに、海外の「2ちゃんねる」みたいな掲示板があって、そういう人達が情報を交換して、 やっぱり海外の、別の誰かが「まとめサイト」みたいなものを作って、検索しやすい形で公開する。

場所によっては、すごく「親切」な作りになってる。

文章は読めないけれど、その漫画の題名の下には小さなサムネイル画像が何枚かあって、 恐らくは漫画の紹介文だとか、感想文だとか、細かく書いてある。文章の最後にはリンクが張ってあって、 そこからダウンロードサイトに飛ぶと、もうそのまま、海賊版のファイルがダウンロードできる。

「海賊版」は便利。中身は画像ファイルの集まりだから、好きなソフトで読むことができるし、保存も削除も自由にできる。

出版社にも、「ダウンロード版」を提供するところが増えたけれど、お金払うまで内容が全く 読めなかったり、お金払ってデータもらって、それを読むためには、その出版社でしか使えない、 お世辞にも出来がいいとは言えない電子ブックソフトをインストールしないといけなかったり。 自分で買ったデータなのに、保存する場所も自分で選べなかったりして、 せっかく電子化された情報なのに、なんだか実物の本よりも取り回しが悪い。

検索できること。あらゆる本が揃っていること。「まとめサイト」があって、同じような本が探せること。 今の「海賊版」は、Amazon よりもむしろサービスがいいぐらいで、どこにでも居ながらにして、 クリック一つで「実物」がダウンロードできる。

それはたしかに「違法」だけれど、「合法」側の分が悪すぎて、 これではたしかに、まじめにお金払う人は減る一方だよなと思う。

ゆるい絆の強い力

海賊行為をする人達は、スキャンする人、アップロードされたファイルを探す人、 サーバーを提供する人、様々な情報を見やすくまとめて公開する人、たぶんみんなバラバラに動いていながら、 それが何となく、検索エンジンを介したゆるいつながりを保っている。

「ゆるい共同体」は、結果として Amazon 以上の規模を持った「バーチャル書店」みたいなものを ネット上に作り上げているけれど、この組織には「頭」に相当する場所がないから、 今までの法律だとか、警察のやりかたでは潰せないし、たとえどこか一部を潰したところで、 個々の人達がやっていることは決して複雑なことではないから、需要がある限り、その機能は別の誰かが置換して、 海賊行為は無くならない。

「ヒトデ」のような、中枢神経を持たない生き物のような組織の典型で、こういう構造を持った組織は、 著作権を管理する人達がいくら強力に取り締まっても、たぶん問題は解決しない。

嫉妬でヒトデを退治する

「ヒトデはクモよりなぜ強い」という本には、こういう「ヒトデ」退治の方法として、 アメリカ先住民族のアパッチ族に、牛を与えるやりかたが紹介されていた。

スペインが南米を征服した昔、そのまま北に進んだスペイン軍は、アパッチ族に撃退された。

アパッチ族には「族長」の概念が希薄で、リーダーに相当する人は、その場の雰囲気で何となく決まっていたから、 スペイン軍が「頭」とおぼしき人物を倒しても、相手の勢いは乱れなかったのだという。「頭」を倒しても、 すぐに別の誰かがその場所に座って部族を率いたから、アパッチ族は負けることがなかったのだと。

北米に移り住んだアメリカ人は、アパッチ族を撃退するのに、相手に「牛」を贈与した。

牛は貴重な財産で、財産をもらった「頭のない組織」には、組織のリーダーになることに、 財産という実利が発生するようになった。財産の取り分を巡って、アパッチ族には いざこざが発生するようになって、結果として「頭」が生まれたアパッチ族は、 軍隊が与しやすい相手となって、アメリカ大陸の主導権は、白人が奪うことになったんだという。

合法違法を問わず、全ての「ダウンロード」にお金が発生する仕組みにしたら、面白いだろうなと思う。

これをやると、違法ダウンロードを許可しているアップローダー管理人だとか、 あるいは「まとめサイト」を運営している人達には、すごい財産が転がり込んでくる。

その一方で、漫画を購入してスキャンデータを作る人にはなんのお金も発生しないし、 今まで無料の漫画を楽しんできたユーザーは、今度はまとめサイト管理人にお金を支払わないといけなくなる。

恐らくは「バーチャル巨大企業」と化していたゆるい共同体には、嫉妬心が生まれる。

大金を手にして笑いが止らない人達を見て、まじめに(?) スキャンしていた人達は、 バカらしくなってデータを上げなくなってしまうだろうし、 どうせお金を払うのならば、ユーザーはたぶん、「ずるく儲けている奴ら」よりは、 たぶん漫画の原作者を探して、そこにお金を払いたいと思うようになる。

結果としてたぶん、漫画をスキャンしていた人は、単なる漫画好きの読者に戻って、 海賊版をダウンロードしていたユーザーは、原作者から直接漫画を購入して、 「ずるい」中間層には、データもお金も入ってこなくなる。

この人達がもう一度、いい思いをしようと思ったら、今度は自分で漫画を購入して、 自分でスキャンして、有償配信を行わないといけない。 これはもう、単なる犯罪だから、今までどおりの法律で容易に取り締まることができる。

ユーザーの知能化が公正を生む

「ずるい」人達に罰を与える代わりに、彼らに財産を与えて大笑いさせることで、 共同体に嫉妬心を育てて、結果として、無難な状態としての「フェアな世界」を作り出す。

恐らくは「支払い」という行為をユーザーに強要することで、ユーザーには「頭を使う理由」が発生して、 そのときたぶん、自分がお金を受け取る理由をきちんと説明できない人達は、共同体から追われてしまう。

こうしたやりかたは案外有効だと思うんだけれど、恐らくはたぶん、最初のひと転がり、 「ずるい奴らが大笑い」を我慢することができない、あるいは、「ユーザーに知能化してもらっては困る」、 著作権を守る側の嫉妬心が、こうしたやりかたを阻害してしまうんだろうなと思う。

Comment & Trackback

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アパッチ族の文化のコンテキストで牛を与えることは効果をもったけれど、インターネットにはいろんなコンテキストがあるので、「公正」にはならないと思う。
例えば、違法ダウンロードの「トップ」にお金を与えることができたときに、「トップ」がそれより下に利益を分配することも考えられる。そういうコミュニティをつくるコンテキストも含まれているわけで。

とはいっても、話的にはおもしろい内容でした。

群衆の責任、いずこ – 書評 – ウィキペディアで何が起こっていのるか

自腹購入。

ウィキペディアで何が起こっていのるか
山本まさき /
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これを読了したおかげで、

たぶん越権さんには通じないと思うけど – finalventの日記
finalventさんのは…

ありがとうございます。

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