魔法使いの話

現実世界に「魔法使い」が普通にいる社会。

世界を滅ぼすような力を想定するとパワーバランスがめちゃくちゃになるから、 腕の一振りで10人ぐらい、何の力も持ってない、「普通の人」を殺傷できる程度の力。

魔法の力は生まれつきで、基本的に普通の人から生まれてくる。人数は、日本国内で10万人ぐらい、 少し大きな町であれば、必ず何人かは魔法使いで、見た目は普通の人と区別がつかない。

魔法はたしかに強力だけれど、少数派。普通の人が銃を持ったり、あるいは集団で向かってくれば、やっぱり勝てない。

世界には今と同じく政府があって、利害関係と多数決が政治の流れを決める。 最初のうちは、政府はもしかしたら魔法使いの存在それ自体を認めないかもしれないけれど、 「魔法というものがある」ことが認識されたら、今度はきっと、魔法に規制をかけてくる。

魔法は銃刀法みたいな規制を受ける。一般市民に魔法を行使したら犯罪だし、それ以前にたぶん、 魔法使いであることそれ自体が抑止力になってしまうから、一般市民に魔法を見せること自体もタブー視される。 魔法使いは「危険な存在」という認識が為されて、外から見てそれと分かる格好を強制させられるし、 それに従わない魔法使いは罰せられる。

取り締まったり、罰したりする「警察」の側にも、たぶん一定の割合で魔法使いが就職する。 もしかしたら警察組織は、魔法使いにとっては能力が生かせる貴重な職場になっている。

一般市民に挑発されても、魔法使いは手も足もでない。魔法を使えば取り締まられるし、 魔法使いを取り締まって、その人を罰するのもまた、「仲間」であるはずの魔法使い。

「事件」の始まりは、いつも「力なき一般市民」。

くだらない挑発行為が繰り返されて、追い詰められた魔法使いが、仕方なしに魔法を行使する。大騒ぎになる。 市民は口々に「被害」を訴えて、魔法が使える警察官が動員される。

娯楽に飢えた一般市民に見せ物を提供するためだけに、魔法使い2人が、市民の前で殺しあいを演じさせられる。

警察の魔法使いは強力だけれど、「勝った」ところで気分は晴れない。

欲しがって得たわけではなかった、それでも最初の頃はうれしかった「魔法」の能力。

「よい市民」の通報を受けて、「悪い魔法使い」を倒す。みんな喝采する。口の端には品のない笑みが浮かんでる。 自分が倒した「悪い魔法使い」にだって、たぶん言い分はあったはずなのに、魔法を持っている、能力を持っている、 その能力を、「よい市民」の前で行使したことそれ自体が罪と断じられて、自分に倒される。

能力を生かすために、一般市民を守るために警察に入って、結局のところ、自分たちは、 その中の「最悪」の連中に、娯楽を提供することしかできない。

戦う。倒す。市民はますます興奮して、もっと強力な「娯楽」を求めて、別の魔法使いを挑発する。 また倒す。「魔法の恐怖」が喧伝されて、「よい市民」は娯楽を求めて、自分たちの「よさ」を確認するために、 「安心できる社会を作る努力が感じられない」なんて、警察を叩く。

ある日刑事部長が失踪する。強力な魔法使い。「魔法警察」を代表していた人物。

「よき市民」が倒される事件が相次ぐ。犯人の手がかりは全くないけれど、警察側の魔法使いは、 それをやったのが誰なのか、みんな分かっている。

刑事部長にあこがれて警察の門を叩いた新人魔法使いが、今度はその部長を追いつめて、 「市民」を守るために、昔の上司と殺しあいをする。

部長は倒される。あるいは、倒されたかったのかもしれない。

警察が勝利して、社会は平和になって、魔法使いを取り巻く現実は、結局何も変わらない。

魔法使いが本当に存在したら、だからこそたぶん、「魔法なんてないんだよ」なんて、彼らはきっと真っ先に口にする。