Vasopressinは最強の昇圧剤かJul 01, 20021 はじめに近年,エピネフリン静注を軸とした心配蘇生のプロトコールは広く流布しているにもかかわらず、 その成果は限定されたものに止まっている。 アメリカでは現在でも,心停止で発見された人の蘇生率は5%未満である。 広く用いられているにもかかわらず、エピネフリンの心停止症例にたいする効果は動物実験でしか証明されていない。 1.1 心停止に対する昇圧剤の使用すべての人体に対するストレスは,エピネフリンの放出を促す。 心停止は人体に対する最も大きいストレスの一つであるが、人体および動物実験において、 内因性のエピネフリン放出が高まることが分かっている。 これにより全身の血管抵抗が高まり、心臓、中枢神経系への血液の再分布が生じる。 この動物実験での発見が、心停止症例でのエピネフリンの使用を広めた。 この結果ここ30年間、エピネフリンは心停止での第一選択薬となっている。 1.2 エピネフリンは生命予後を改善するか?1992年の、エピネフリンに関する人体でのトライアルでは、エピネフリンは心停止においては、 プラセボと比較して余命の改善を示し得なかった。 別のトライアルでは、高容量と従来の量の2種のエピネフリンの使用法を比較しているが、 どちらも生命予後の改善を証明できなかった。 以上の結果からすると、心停止症例は未だに生命予後は極めて悪く、 またエピネフリンの使用は生命予後を改善してはいないように見える。 2 より強力な昇圧剤2.1 vasopressinエピネフリンの代わりとなる薬剤については、現在のところ最も有望なのがvasopressinである。カテコラミンと同様、心停止時にはコルチゾール、レニン、そしてvasopressinの放出が亢進する。 また、CPRとなった患者では、血中vasopressin濃度と心拍再開率との間に正の相関が見られる。 一方でカテコラミンについてはこうした相関関係は逆転し、カテコラミン血中濃度が高いほど、蘇生率が低くなる。 こうした観察を受け、vasopressinの心肺蘇生への応用は、まずは動物実験から始まった。 動物でのデータからは、vasopressinはエピネフリンに比べて作用時間が長く、 重要な臓器への血流をより多く増やすことが分かった。さらにvasopressinは、 蘇生後の不整脈の発生頻度が低く、蘇生自体の成功率もエピネフリンに比べて高かった。 こうした結果は、vasopressinが低酸素血症、低pH環境ではエピネフリンよりも有効に働くこととも関係すると思われ、 動物実験レベルでは、vasopressinはエピネフリンよりも有効な蘇生薬である、という結論になった。 2.2 人体でのスタディーこうした実験結果を受けて、近年になってvasopressinは治療抵抗性の心停止症例に対して試みられるようになってきた。 最初の報告はケースシリーズであったが、8人の定型的なCPR(エピネフリンの静注を含む) を受けても回復しなかった心停止の患者に40単位のvasopressinを静注し、 すべての症例について回復が見られたというものであった。 この結果を受けて40人の心停止症例にvasopressinとエピネフリンとの比較が試みられたが、 蘇生率はvasopressin群の方が2倍高く、さらに退院できる割合も高くなったという。 3 vasopressinの作用機序エピネフリンと違い、vasopressinはより作用時間が長く、 また心肺蘇生時に良く見られるアシドーシスの環境下でも強力な血管収縮効果を生じる。 また、エピネフリンは b1受容体を介して心筋酸素需要を上げるのに対し、 vasopressinは心筋酸素供給量を上げ、心筋収縮力を上昇する一方で、心筋酸素需要を変えないという性質がある。 この理由は良くわかってはいないが、その作用機序の違いによるところが大きいと思われる。 カテコラミンは血管平滑筋細胞表面のCaチャネルを開き、これにより血管収縮を生じるが、 この作用はアシドーシス、低酸素下では減弱し、 さらに血管拡張性ショック時に見られるNOによる血管拡張作用については、これを拮抗することが出来ない。 このため、血管拡張型のショック症例では、カテコラミン不応の例が存在するが、 vasopressinはやはりCaの細胞内流入を介した血管収縮を生じる一方、NOの作用を直接的に拮抗し得る性質を持つ。 さらにカテコラミン不応性のショック症例において、 内因性のvasopressin産生が低下している症例があり、こうした症例では、 少量のvasopressinを補うだけで劇的に血圧が上がる例が報告されており、 心停止例でもこうした現象が起きている可能性がある。 4 vasopressinは理想的な昇圧薬か正常血圧の症例にvasopressin静注を試みても、血圧は変動しない。 その一方で、高容量のカテコラミンを用いても血圧の上昇しないショック症例にごく少量のvasopressinを用いるだけで血圧が急速に上昇し、カテコラミンを中止することが出来た症例も多数報告されている。 効果が報告されている症例としては、CABGなどの体外循環使用手術後の血管拡張性ショック、 敗血症、ミルリノン使用に伴う血管拡張性ショック、治療抵抗性の出血性ショックなど、 いずれも血管拡張を主体としたショック症例で、カテコラミンや輸液に反応しないものが対象である。 これらの症例では、いずれも心原性ショックなどと比べて血中vasopressin濃度が低いか、 あるいは正常血圧時と変わっていないことが報告されている。 治療抵抗性の血管拡張型ショックでは、何らかの機序でvasopressinの産生が阻害されていることが分かる。 この理由が内因性vasopressinの枯渇によるものなのか、あるいは産生刺激の欠如によるものなのかは分かっていないが、 いずれにしてもこうした症例にvasopressinの少量の併用は、効果があるといえそうである。 心肺蘇生に使用する量とは違い、ショック症例に昇圧を期待して用いるvasopressinの量はほぼ生理的な量に等しく、 電解質異常やSIADHの合併等は、ほとんど生じないとされる。 一方でvasopressinは不整脈閾値を上げ、また腎の輸出細動脈を収縮させることにより見かけのGFRを上昇し、
尿量を増す効果なども報告され、今後一部のショック症例については積極的に用いられる可能性がある。
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