2005年12月15日

ILCOR-CoSTRおよび関連資料の粗訳

ILCOR-CoSTRおよび関連資料の粗訳

2005年の心肺蘇生のガイドラインの和訳を作ってくれた人達がいた。
自分でやり始めなくて本当に良かった。

ガイドラインの発表が2005年の11月末。早速海賊版を…と思ったが思いとどまり、 どうせどこかで和訳を始めるグループが絶対出るはずと探し始めたのが5日後。 当院の救急の先生から、このグループの活動のことを教えてもらい、待つことにしたのが 1週間目。

2000年の時にはこうした動きは(たぶん)なく、和訳が出版されるまでに1年近くかかった。 Web版も無かったので、その間は結局自分で訳すしかなかったし。

「車輪の再発明を避けよ」というのは鉄則で、Web上に使いまわせる資料が出回る現在、「自分でやるよりまず探せ」は他の業界では当然だったのだけれど、医療界でもようやく有用な資料を公開してくれる人たちが増えてきたのはうれしいことだ。

うちの表ページも、そろそろ削除の時期。古いし。

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2005年10月30日

アナログ評価の検査

大動脈圧波形

いま働いている集中治療室では、患者さんのほとんどに動脈ラインがつながっている。

aline.jpg
動脈ライン。右の赤いのが波形。

動脈ラインはいろいろなことに使える。血圧や脈拍数は24時間連続して測れるし、 採血も楽だ。24時間体制のICU、1日に4回も5回も採血される患者さんはたまったものではないけれど、 これがあるから針を刺すのは1回で済む。

動脈ラインの波形は病気の診断にも使える。 吸気にあわせて圧が下がれば奇脈。タンポナーデや胸水、あるいは 重篤な脱水の時にこうなる。脈拍ごとに血圧が交互に上下すれば、交互脈。これはひどい心不全の時に みられる。

動脈圧波形を見ることで、たぶんもっとも役に立つのが、体内の「水加減」を推定できることだ。

水分という大事なもの

その人の体内の水分量は、足りているのか、脱水なのか。 治療を行っていくとき、どのぐらいの「水加減」で その人の体を管理していくのか。ドライ気味に診ていくのか。あるいはウェットサイドで管理するのか。

水加減というのはいろいろな要素で決まる。

  • 心臓機能が落ちていれば、同じ水分量でもうっ血を生じる。
  • 外科の手術後などは、内科の常識ではありえないぐらいの輸液量を入れても、まだ足りないことがある。
  • 栄養の悪い人、肝臓の悪い人では、水を入れないと血圧が保てず、水を入れれば入れただけ胸水が増える。

医者のやっていることが本当に何かを「管理」出来ているのなら、 水加減を調節できる能力というのは 医者の技能の中では相当に大事な能力だ。

これは何をみても分からない。

胸部単純写真は嘘をつくし、心エコーも嘘をつく。
血液検査。肺動脈カテーテル。どんな検査でも例外はあるし、全員にできるものでもない。
静脈血酸素飽和度。とても役に立つけれど、これを正常化しようと思うと、 患者さんの心臓には相当根性を出してもらわないと、体内は水浸しになる。

リアルタイム検査のありがたさ

動脈圧波形による水加減の推定というのもまた、そうとうにでたらめな検査だ。

  • 動脈圧波形が「尖って」いたら、その人には水が足りていない
  • 圧波形がきれいな3角形をしていたら、水分量としてはだいたいいい線をいっている

基本はこれだけ。足りないならどれだけ入れればいいのか。 そもそも本当に「足りない」のか。 アナログな波形判断だけでは答えは出ない。検査の感度や信頼性という部分では、 この検査は信頼性は低い。でも役に立つ。

このパラメーターのもっとも大きな利点は、それがリアルタイムの検査であるという部分だ。

動脈圧波形はいつでも見られる。心臓の拍動1回ごとに新しいデータがモニターに出てくる。 何か機械を操作したり、あるいは検査室からデータが返ってくるのを待つまでもなく、 データは常に目の前のモニターに反映される。

ICUの治療は、分からないときは手探りで「現物あわせ」をやっていくしかない。こうした状況では、 やったことがリアルタイムで繁栄される検査パラメーターというのは本当にありがたい。

心カテ中にトラブったときなどは、もうこの波形の形を元に戻すことだけを考えて治療する。 修羅場になったとき、カテ屋が「戻ってくれ!」とお祈りするのは、心電図よりも動脈ラインの 波形のほうだ。これが平坦になると、死んじゃうから。

動脈圧波形の解釈は本当に便利だ。その割りには、その解釈の方法、 波の形が変化した時、何をするのが教科書的に正しいのか。そうしたものを まとめている教科書が見つからない。

いまの集中治療室は、いろいろな科の医師が寄り集まっている。

循環器内科やいろいろな臓器の外科。麻酔科や、集中治療の専門医。 どの文化圏の医師も、動脈ラインに「読みかた」があることは知っている。

それでも、その読みかたは現場の言い伝えレベル。今回、いい機会なので調べようと思ったのに、 まとめて解説している教科書や論文が見つからない。面白そうなのに。

デジタル時代に滅んだ検査

医療の分野も、デジタル化が進んでいる。

検査データや画像を電子化して取り込むのは当たり前。 様々なデータもまた、その解釈の方法がデジタル化されつつある。

見えたものをそのまま描写するのは時代遅れ。 病理組織は免疫染色で定量化され、画像は数字で表現される。 循環器の領域。心臓の動きや血管の狭窄度は、コンピューターが測ってくれる。

デジタル化に伴って滅んだ学問、滅んだも同然の検査も多い。

経静脈波。心尖拍動波。様々な心機図。ベクトル心電図。聴診や理学所見だって滅びつつある。

これらの検査に共通するのは、数字で表すことができないという点だ。

デジタル化しないと伝えられない

数字にならない検査では論文にならない。

経静脈波や心尖拍動波。胸に当てたプローべで心臓の波を拾う検査だから、 人によって正常値が違う。「ゼロ点」に相当する概念がない。 同じ人で毎日計ったって、その波形は毎回微妙に違ってしまう。

心機図やベクトル心電図。心臓の「動き」を波形化した検査では、その周波数は2Hz前後。 1秒間に1から2回しか動かないから、その波形変化を数字にするのはとても難しい。

アナログデータは教科書も書きにくい。

検査そのものに「正常値」が存在しないから、正常とは何なのかを表現しにくい。 アナログというのは「正常」のアナロジーでしかないから、正常を知るには 正常な症例を何百例も積んでみるしかない。

数字で表せるデジタルデータの見かたなら、正常値を書けばそれで済む。 正常ならば、何もしない。正常値を外れたら、対処を考える。

同じ波形解析の検査でも、心電図や脳波はデジタル化しやすかった。

両方ともアースをとるから、ゼロ点がはっきりしている。心臓の動きに比べれば、 脳波や心電図の周波数ははるかに高いから、デジタル化して波形を解析するのも何とかなる。

心電図の自動診断。麻酔中脳波のエントロピー解析。莫大な脳波情報の視覚化。 24時間心電計の心拍変動解析。デジタル化は様々な恩恵をもたらし、 今まで見えなかったものを見えるようにしてくれた。

AD変換の過程で失ったもの

デジタルデータは便利だ。それでも、「生データ」は常にアナログ情報だ。

アナログをデジタル化する段階で中間情報は失われるし、 医者はそのデジタルデータをみて、全体的に「悪い」とか「良くなってる」とか、 総合的に、アナログ的に判断する。

昔のお医者は偉かった。患者さんを聴診器一つで診断できたし、 我々の世代では「わけの分からない波」にしか見えない経静脈波を解釈して、 心臓の中の様子を予言する。いまは無理だ。アナログデータをアナログのまま 解釈する技術はすたれてしまった。

変換の過程で絶対に情報の欠けるデジタルデータと、 言葉で表現すると絶対に正常を表現できないアナログデータ。

心電図の解析。本当は12誘導を頭の中で再構築して、元の心臓の形を想像しながら 読むやりかたというのがあったのだが、正常な人をそれこそ何千枚もみないと 伝わらないので誰もやらなくなった。

そして動脈圧波形からの水加減の推定。非常にきれいな波形だし、ゼロもしっかりとれる。 多分誰かがやっているはずなのだが、なかなか検索に引っかからない。

アナログをアナログとして伝えるやりかたで、誰か動脈ラインの解析のしかた、 まとめてくれないだろうか。

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2005年2月 9日

シンプルなワーファリンの使いかた

Initiation of warfarin therapy in elderly medical inpatients: A safe and accurate regimen

平均85歳の高齢者に以下の方法でワーファリンを開始したところ、致命的な出血(別にワーファリンが効きすぎたわけではないらしい)を生じた1例をのぞいて大きな合併症を呈することなく、7日以内にワーファリンの維持量を決定することができたという。

Day午前10時にINR の採血午後6時にWarfarin(mg) を内服
Day 0Do not measure4
Day 1Do not measure4
Day 2Do not measure4
予想されるワーファリンの維持量(mg)
Day 3<1.35
1.3 ≤ INR < 1.54
1.5 ≤ INR < 1.73
1.7 ≤ INR < 1.92
1.9 ≤ INR < 2.51
INR ≥ 2.5INRが2.5以下になるまでワーファリンを中止し、以後1mgから再開

要は連日4mgを投与し、投与4日目のINRの値で以後のワーファリンの維持量がほぼ決まるというもの。

この値は73%の患者でほぼ正確な維持量となり、95%の患者で誤差1mg以内で維持量を予想しうるという。

ワーファリンの開始量が少なく、採血の回数も少ないために結構便利かもしれない。しばらくこれでやってみるか?。

2005年1月25日

心不全の治療

某講演会から。

hANPは心臓をリラックスさせるホルモンである。

心不全の治療戦略

血行動態の改善 カテコラミン、PDE阻害薬 減負荷療法 亜硝酸薬 ACE阻害薬(前負荷軽減) PDE阻害薬、hANP、ACE阻害薬(後負荷軽減)

心筋細胞の保護薬 hANP、ACE阻害薬、アルダクトン、ベータ遮断薬

急性期心不全の治療戦略は、現在心刺激薬の時代から心筋保護を急性期から行う戦略に変わりつつある。

レニン-アンギオテンシン系の研究は、現在アンギオテンシンからアルドステロンにその話題が移りつつある。

ANP/BNPはともにアルドステロンの産生を抑制する形で作用する。

ANP/BNPの作用

Na利尿
血管拡張薬としての作用
アルドステロン、AVPの分泌抑制
心筋肥大や繊維化の抑制

アルドステロンは副腎で合成されるが、不全心筋を持っている人に限っては心筋でも合成される。
アルドステロンは、今まで予想されていた以上に心血管系に悪影響を与えている。

組織レニン-アンギオテンシン系への悪影響

酸化ストレスの原因
心筋組織中のアルドステロン濃度は、血液中の17倍程度まで上昇している

アルドステロンは酸化作用の強いホルモンで、特に心筋組織の炎症、繊維化をもたらす。

アルドステロンのこうした作用は、試験管内では再現されにくかった。こうした悪い作用は、ナトリウムの介在が無いと生じない。

減塩が徹底的に行えるならば、レニン-アンギオテンシン系の心筋への悪影響は非常に少なくなる可能性がる。

スピロノラクトンの内服は、ACEの遺伝子の発現を抑制する。ACE阻害薬よりもさらに手前の段階で、アルダクトンはRAASの働きを抑制している。

BNPの静注は、アルドステロンの産生を押さえる。一方、血液中のレニン、ノルエピネフリンの濃度はあまり下げない。

ANP/BNPはACE阻害薬、ベータ遮断薬、ARB/アルドステロン拮抗薬の作用を併せ持っている。

心不全患者では、患者の血圧の低下よりも先にBNPの低下が生じる。

心不全患者において、本気で患者の後負荷の軽減を図るには相当な量のACE阻害薬が必要になる。

重症の心不全の患者さんに、本格的な心保護的な治療戦略を行うと、血圧の上昇が見込めず無尿になる。しかし検査データが悪化しないならば、3日ぐらい無尿でもその後必ず利尿が来る。

亜硝酸剤の静注は、うっ血が取れても症状の軽減がこない一方、ANPの静注は肺うっ血がある状態であっても患者の症状がまず楽になってくる。

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2004年11月23日

Cheyne-Stokes呼吸と心不全

最近難治性の心不全の患者さんが何人か続いたので。

Cheyne-Stokes respiration in patients with congestive heart failure

Cheyne-Stokesと予後

Cheyne-Stokes呼吸は心不全患者によく見られる周期性の無呼吸であるが、この症状は予後悪化の危険因子にもなっている。Hanlyらの報告では、同程度の心不全患者の予後を比較した場合、2年間の追跡でCheyne-Stokesの無い患者では生存率が86%であったのに対し、Cheyne-Stokesを合併した患者では生存率は56%と低下していた。

Cheyne-Stokes呼吸を合併している心不全患者では、交感神経の緊張が増加していることがわかっている。いくつかの心不全患者の報告では、この中枢性無呼吸を治療することで交感神経の緊張が緩和し、不整脈の頻度が減ったとされている。この報告で用いられた治療手段はCPAP療法であったが、この治療を従来の心不全治療と併用することで、心移植待機中の心不全患者でLVEFの増加をみたという。

Cheyne-Stokes呼吸の原因

Cheyne-Stokes呼吸が生じる原因には大きく2説ある。ひとつは中枢のCO2濃度受容体の感受性更新によるもの、もうひとつは血液の循環時間の低下によるものである。

前者は、Cheyne-Stokes呼吸を生じている心不全患者のPaCO2が低下している観察から考えられた説で(対照的に閉塞性無呼吸の患者はPaCO2が増加していることが多い)ことから、左室拡張末期圧の増加により慢性的な肺のうっ血を生じ、このことがわずかなPaCO2の変動で実際の呼吸周期を大きく変動させてしまうと考えられている。また慢性的に生じた過呼吸の影響で、体内のCO2ストアが減少し、バッファーとして働く重炭酸の量が減ってしまうため、わずかなCO2の変動が容易に体液pHを変動させてしまうこともCheyne-Stokes 呼吸を招くという。

後者の説は犬の内頸動脈に細いプラスチックの管を挿入し、血液の循環時間を延長させたところCheyne-Stokes呼吸を再現できたという報告から生まれた説で、心機能の低下から患者の血液循環時間に遅延が生じ、このためCheyne-Stokes呼吸が出現するとされている。しかし、近年患者の血液循環時間とCheyne-Stokes 呼吸の発生とに必ずしも相関が無いことなどが報告され、Cheyne-Stokesの発生原因としては前者のほうがより有力になっている。

Cheyne-Stokes呼吸の頻度

心不全患者での報告ではCheyne-Stokesの合併頻度は55%から33%程度と幅がある。男性、血ガスでのPaCO2が38mmHg 以下、心房細動の合併、60歳以上といったものが危険因子となる。

この呼吸の出現頻度は夜間が多く、同じ患者群で日中のCheyne-Stokes呼吸の頻度は28%であったのに対し、夜間の頻度は71%であったという。

Cheyne-Stokesの治療

ベースに存在する心不全の治療が第一であるが、それらを十分に行ってもなお無呼吸が生じた患者に対する治療として提案されているものはCPAP、酸素投与、テオフィリンの内服、3%CO2の吸入、さらに心房ペーシングなどがある。

これらのうち、テオフィリン内服は不整脈の頻度の増加の副左葉があり、CO2吸入も睡眠の質の低下、脳浮腫の危険といった問題点がある。心房ペーシングは比較的新しい治療手段として紹介されているが、予後に与える影響などはまだまだこれから論じられる段階である。

CPAP療法は中枢性の無呼吸の患者であっても有効な治療手段として用いられてきたが、なぜこれにより無呼吸の改善が見られるのかはよくわかっていない。CPAPが心不全自体に与える好ましい効果はいくつもあるが、同程度の心機能の患者であっても、Cheyne-Stokes呼吸のない患者においてはCPAPは予後を改善しなかった。

この治療手段の有効率は40%から60%程度で、慢性期にはコンプライアンスが問題になる。また、心房細動を合併した患者にCPAPを行うと心拍出量が減少することが報告されており、注意が必要である。BiPAPの使用はCPAPに比べて患者の認容性が増すが、血行動態や予後に与える影響はCPAPとの差は無かった。

酸素投与は、患者の呼吸ドライブを減少させることで周期性呼吸を改善させると考えられている。量としては2-4l程度で有効といわれている。

CPAPと酸素投与との比較では、有効率、交感神経緊張を緩和させる作用ともCPAPと酸素投与は同等であったという。

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2004年11月18日

テノーミンには予後改善効果が無いかもしれない

Atenolol in hypertension: is it a wise choice?

ロサルタンとの予後改善効果を比較したLIFEスタディの結果を受け、そのコントロール薬であったアテノロールの効果を過去のスタディから比較研究した報告。

アテノロールはプラセボと比較して有意に血圧を下げたものの、予後の改善効果はプラセボとかわらず、また脳卒中の発生頻度はプラセボに比べて高い傾向があった。実薬との比較では、アテノロールはほかの薬剤に比べて予後、合併症頻度とも高い傾向があった(有意差は出たものとそうでないものとが混在)。

一方、ほかのベータ遮断薬では、特に心不全や心筋梗塞後の患者に用いることで予後の改善や心機能の改善効果が報告されている。

アテノロールの今回の結果の原因としては、アテノロールが水溶性の薬剤で、心筋繊維化の抑制にかかわる中枢神経中の薬剤濃度が低いこと、心肥大を抑制する効果がアテノロールでは弱い(十分に証明されたスタディが存在しない)こと、いくつかの降圧薬で示されている血管内皮細胞機能の改善効果がアテノロールでは証明されていないことなどが挙げられている。

うろ覚えだが以前にも、心不全で効果のあったベータ遮断薬(メトプロロール、ビソプロロール、カルベジロール)はいずれも脂溶性なのに対し、心不全のトライアルで予後改善効果を証明できなかったベータ遮断薬(ソタロール、ブシンドロール、ザモテロール、ナドロールがあげられていた)はいずれも水溶性のものであったというreviewがあった。