2008年4月 2日

気道確保のやりかた

近頃読んだ、気管内挿管しやすい姿勢の作りかたに関する文章が面白かったので、 表ページの気道確保と初期のCPR という文章を一部改定しました。

最近多用している挿管ポジションの作りかたと、当院で使っている 「ガムエラスティックチューブ」という挿管補助に使用する道具について。

どちらのやりかたも、ここ2ヶ月ぐらい試していますが、個人的にはいいかんじです。

訂正すべき箇所などありましたらご指摘いただければ幸いです。

4月3日追記:コメント欄で間違いを指摘していただいた部分を訂正しました。

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2005年11月12日

HFOVの原理と臨床

プレゼンテーションを作った。
来週から実際に使う。

HFOVの原理と臨床

興味のある人、何人ぐらいいるんだろう…。

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2005年11月10日

HFOVクイックガイド

現在、うちのICUには R-100という呼吸器のデモ機が入っている。

この機械はHFOV(高頻度換気)という小児科で使われる古い呼吸器モードを 備えた呼吸器なのだが、成人でも使えるだけのパワーを持っているところが 新しい。

BILEVELが広まって以後、人工呼吸器に関しては全く興味を失っていたのだが、 この呼吸器は久々に面白い。自分の肺につないで試してみると、全く新しい感覚で 呼吸ができる。慣れると、自分では全く呼吸しなくても、振動だけでちゃんと換気が行える。

ARDSの治療はこの数年全く進歩が無い(エラスポールなんて、単なる「水」だ…)が、 この呼吸器は久々に「くる」気がする。

で、Johns Hopkins 病院の成人用のHFOVのマニュアルを和訳したので、 興味のある人は使ってみてください。誤訳等、指摘していただければ幸いです。

原著はCritical Care Medicine 2005.Vol.33,Suppl.No.3 の中から抜粋。

現物はこちらPDF版も作りました。

原理とか応用とか、詳しい資料を製作中。論文を引っ張ると、呼吸の世界ではなく 波動の世界の話題になってしまい、数式だらけで理解するのに一苦労。 日本語の文献、一つも無いし。いつ出来上がるのやら…。

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2004年12月 1日

歯垢は院内肺炎に直結する

A Reservoir of Respiratory Pathogens for Hospital-Acquired Pneumonia in Institutionalized Elders

歯垢で繁殖した細菌が気管内に誤嚥されると肺炎を生じる。この機序は特に、入院期間の長い高齢者の院内肺炎の原因になりうるといわれていたが、その証明を試みたスタディ。

ICUに入室した49人の患者に、入室時に歯垢を採取し培養を提出、入院中に肺炎を生じた患者について気管支鏡を行い、肺から採取した細菌と歯垢の細菌のDNAパターンを比べた。

肺炎を生じた10人の患者から採取した13検体のうち、9検体は歯垢の細菌パターンと非常によくマッチした。歯垢から採取した細菌で最も多かったのは黄色ブドウ球菌、その次に腸管内のグラム陰性桿菌、さらに緑膿菌が続いた。

寝たきり老人の多い施設で働いていると、中途半端に数本歯の残った高齢の患者さんを多く見かける。脳梗塞などで誤嚥が多く、胃瘻が入っているような方では口が使われることが少なくなり、さらに口腔ケアを行うにも残った歯が邪魔をしてなかなかきれいにならない。

こうした患者さんに全抜歯を行うと、口腔ケアはガーゼで口腔内をぬぐうだけで非常にきれいになり、また肺炎の頻度も低下する。以前一緒に働かせていただいていた口腔外科の先生の話では、歯科領域では全抜歯による肺炎頻度の低下というのは統計的に証明されているのだそうで、患者さんやその家族からの同意が得られれば、誤嚥性肺炎を繰り返す患者さんの予防手段としては非常に有効なのだそうだ。

たしかに、口腔の粘膜面であれば細胞1枚下には白血球が遊走して細菌を殺せる環境が整っているのに、歯の表面はこうした自浄機能がまったく働かない。白い外見とは裏腹に、細菌学的には非常に不潔になりやすい部分であり、中途半端に何本か残っているぐらいなら診るほうとしては無いほうがありがたい。

実際のところは、肺炎予防の話をしても家族から全抜歯の同意が得られるケースは本当に少ないのだが。

2004年11月27日

ガイドラインどおりの抗生物質治療は肺炎の予後を改善する

研修医のころ、当院では抗生物質の使い方についてはかなり厳しくしつけられた。前日当直中に入院した肺炎の患者さんに日和ってパンスポリンなど落としていようものなら、翌日のチーフレジデントから厳しい突っ込みが入る。

「どういう経過から肺炎を疑ったの?」

「グラム染色はした?」

「何でグラム陽性菌しか見えないのにパンスポリン?」

「アンピシリンじゃだめな根拠は?」

などなど。終いには「先生、患者さんに興味ないの?」とか、「患者さん、直したいの壊したいのどっち?」などと止めを刺されて沈没したこと数知れず。レジデントの立場で第3世代セフェム、カルベペネムなど処方しようものならもう内科中を敵に回したも同然で、「あいつ、チエナム処方したらしいよ」という言葉は「あいつ、最近援助交際がばれて取り調べられたらしいよ」と同じぐらい恥ずかしい行為と考えられていた。

そんな中で患者さんが発熱すると大変で、深夜であろうと熱源精査のための全身所見を取り直し、血液培養2セット、点滴ラインは当然入れ替え、考えられる感染検体のグラム染色を行ってからでないともちろん抗生物質の処方は許されず(例外は敗血症性ショックと髄膜炎を疑ったとき)、当直帯に病棟の患者さんが発熱したら2時間は眠れなかった。そのうちこうした行為に慣れてくると、30分もあればすべて終了できたが。

こうした考え方は別に特殊なものではなく、だいたいサンフォードガイドにそのまま従ったものであったと思うが、当時はこうした訓練をする研修病院は珍しかったように思う。

当時肺炎を疑った際にはまずは診察を行ってからグラム染色を行い、顕微鏡を見ながら細菌性肺炎か非定型肺炎かを考え、後者であればさらにヒメネス染色まで行ってから抗生物質に何を使うか考え、その上でスタッフドクターと相談してどういった治療を行うか決定した。

抗生物質の選択はなるべく抗菌スペクトルの狭いもの、グラム染色で肺炎球菌を同定してペニシリンを使って治療したら周囲からすごい奴といわれ、熱源が本当に肺炎か確信がもてないまま「どこでも効く」とばかりにクラビットの内服を処方したことが後でばれると、チーフレジデントから呼び出しを受けて説教を受ける、そんな世界。

こうした行為自体はそれまでの肺炎治療の教科書どおりの方法論を踏襲したものであったと思うが、2001年のATS肺炎治療ガイドラインの発表は衝撃的だった。内容は現物を読むのが一番だが、意訳すると「肺炎の治療にもう頭を使うのは止めましょう。病歴を聞いて重症度を決めたら、何も考えないで広スペクトルの抗菌薬治療をはじめましょう。」とでもいうもの。

Effects of guideline-concordant antimicrobial therapy on mortality among patients with community-acquired pneumonia

pneumonia.jpg

これは後ろ向き研究であるが、実際にガイドラインどおりに治療を行った人と、そうでない人とで30日後の死亡率がどう変わったかを検討したもの。ガイドラインどおりの治療を受けられなかった人には救急外来から入院した人、入院後6時間以上経ってから抗生物質投与が開始された人などが多い傾向があり、重症度を一致させても必ずしも公平なスタディにはなっていないが、30日目の死亡率はガイドラインに従った患者さんで6.2%、そうでない患者さんで21.7%と有意差が出たという。

2000年を過ぎてから、欧米のいろいろな団体が手のひらを返したように広域の抗生物質治療を推薦するようになった。

当時こうした新しいガイドラインを読んで、初回から強力な爆弾を落とすようなこうした治療を「日本風の」治療と呼んで軽蔑し、アメリカ人の感染症治療戦略を信じ、頑なにグラム染色の伝統を守ってきた自分たちはいったいなんだったんだと相当打ちのめされた。

2001年以後当院からは顕微鏡をのぞくレジデントは消滅した。

2004年11月25日

BIPAPモードの設定

BIPAPモードの利点は、患者の自発換気を人工呼吸管理直後から抜管寸前までの間ずっと生かしつづけられる点につきる。このモードの利点は、ちょうど自由に換気が行えるCPAPモードと、患者の肺に愛護的に機械換気を行うことができるPCVモードとをあわせたものに相当する。この両者よりもBIPAPのほうがさらに優れている点として、BIPAP高いPEEP圧と低いPEEP圧の時間設定を自由に調節できるだけでなく、患者の吸気、呼気のタイミングに合わせて2つのPEEP圧をコントロールする優れたトリガーシステムを備えている点が挙げられる。

BIPAPの調節

挿管直後は、従来ならばIPPVやSIMVのモードが用いられる時期であるが、こうしたモードをBIPAPで代替することが可能である。従来のモードともっとも異なっているのが換気時間の設定で、従来の機械換気ではI/E比と換気回数を指定し、吸気時間と呼気時間を間接的に決定していたが、BIPAPではこの2つの時間を独立して設定することができ、これらの時間の設定の結果I/E比や換気回数が決定する。挿管直後の急性期であっても、BIPAPモードは患者の自発換気を消さないため、呼吸器の設定する換気回数やI/E比はあまり意味をもたなくなる。

また、従来型の機械換気であれば1回換気量を設定し、患者の気道内圧をモニターしていたが、BIPAPモードでは逆に気道内圧を設定し、患者の分時換気量をモニターすることになる。

具体的な設定としては以下のとおり。



  1. 通常の呼吸不全の患者でのPEEP圧と同じ圧に、低いPEEP圧を設定する。
  2. それよりも12-15cmH2O程度高い圧に、高いPEEP圧を設定(1回換気量を見ながら調節)する。
  3. 高いPEEP圧の時間は1.5-2.5秒、低いPEEP圧の時間は3.5-2.5秒程度から開始し調節する。
  4. 酸素化が悪ければ高いPEEP圧の時間を延長し、CO2の貯留があるようならそれぞれの時間を短く調節して換気回数を増加させる。

BIPAPのウィーニング

BIPAPモードは、ウィーニング中も同じモードを継続して使用できる。方法は以下のとおり。

  1. 状態が落ち着き、FiO2を50%以下まで下げられたらウィーニング開始。
  2. まずは高いPEEP時間を徐々に減らし、I/E比を1:1から1:3程度まで徐々に増加させる。
  3. この間、患者の吸気、呼気にあわせて機械がタイミングを変更するので同調は気にしなくても大丈夫。I/E比を調節していくと、そのうちに作動はプレッシャーサポート換気とまったく同じになる。
  4. 最後に高いほうのPEEP圧を徐々に減少していき、高いPEEP圧と低いPEEP圧が同じになると、CPAPと同じ動作波形が得られる。
  5. これで問題なければ抜管を考慮する。

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2004年11月24日

エビタのBIPAPモード

BIPAPモードは1985年にはじめて紹介された。このモードの発表以前に存在した同じような換気様式にはAPRVがあり、またBIPAPを開発したグループは、このモードはプレッシャーコントロールベンチレーションの改良型で、いつでも患者の好むときに呼吸ができるものであると紹介している。

従来、換気様式は挿管直後はIPPV、自発呼吸が出てきたらSIMV、ウィーニング期に入ってきたらプレッシャーサポートを加え、抜管寸前にはCPAPモードで様子を見るといったことが行われてきたが、BIPAPならばこうしたモードをすべてBIPAPのみでコントロールすることができる。このため、病期ごとの呼吸器のモードの変更は不要になり、同じモード内での調節だけで挿管直後から抜管までを管理することができ、患者のストレスを減らすことができる。

このモードの開発のきっかけになったのは、患者の重症度に応じて呼吸器のモードがいちいち使い分けられ、呼吸器による機械換気と患者自身の自発呼吸との割合がそのモードごとに異なり、患者はしばしば機械換気にうまく同調することができなくなるのが問題になったためであった。


IPPVとBIPAP

挿管されて人工呼吸器に接続されたばかりの患者においては、従来はIPPVによる換気が選択されることが多かった。このモードは呼吸のすべてが人工呼吸器による機械換気で、患者の自発呼吸はすべて制限される。このため、筋弛緩薬や大量の鎮静剤は不可欠になる。一方、BIPAPでもIPPVと同じような圧波形を供給することはできるが、患者は機械換気の最中であっても、どのタイミングでも自分の呼吸を行うことができる(機械換気が吸気中であっても、患者が息を吐きたいと思えば吐ける)ので、筋弛緩薬や鎮静剤の量を減らすことができる。さらに、機械換気中であっても患者自身の呼吸量が加わるために換気量をその分減らすことができ、結果としてピーク気道内圧をより少なくすることもできる。

PCVとBIPAP

気道内圧波形を見比べただけでは、PCVとBIPAPは区別がつかないぐらいによく似ている。どちらも圧制御型の換気様式で、患者の吸気に同調して気道内に陽圧をかけ、それを設定された時間だけ続けようとする。

この両者でもっとも大きな違いは呼気弁の作動のしかたにある。PCVの場合、患者の吸気中は呼気弁は閉じている。このため患者が息を吐きたくなっても、設定した時間が来ないと呼気弁は開かず、この間は非常に苦しくなってしまう。BIPAPは、患者の吸気時間中であっても吸気弁を閉じることはせず、その開き具合を持続的に調節している。このため患者が息を吐きたくなった場合でもスムーズに呼吸ができ、その間も気道内圧は設定した値に保たれる。

プレッシャーサポートとBIPAP

患者にとって楽な呼吸を目指したモードとして、PSVとBIPAPとはよく比べられる。PSVは患者の吸気と呼気とをすべて患者のトリガーによって行うため、患者は非常に楽に呼吸できる。しかし、人工呼吸器のトリガーには限界があり、頻呼吸になればなるほど呼吸器の応答は悪く、患者の呼吸困難は増し、また換気の効率も悪くなる。

BIPAPもまた、患者の吸気に合わせて気道内圧を上げ、患者の呼気にあわせて気道内圧を下げる。しかし、気道内圧の変化は原則として設定した時間以内には行われないので、患者が頻呼吸になっても呼吸器の応答が保たれる。また、一定時間は患者の気道内圧は高い圧に保たれるので、品呼吸による換気効率の悪化が生じにくく、また自発換気を残したまま最低分時換気量を調節することができる。

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2004年11月19日

肺保護的な換気様式

伝統的な人工換気は、1回換気量を10〜15ml/kgに設定する。この値で換気を行うことで、患者のPaO、PaCOを正常範囲に保つことが出来る。一方、急性肺障害の患者においては、この1回換気量の設定値ではピーク気道内圧が非常に高くなり、肺胞の過伸展を生じてしまう。

急性肺障害の患者の肺は決して均一ではなく、正常に近い部分と病的に虚脱している部分とが混在している。このため過大な気道内圧、過大な1回換気量によるストレスは正常に近い肺胞に集中してしまい、結果として肺全体の換気能力を悪くしてしまう。この現象は、特にPEEP圧が低く、1回換気量が大きい呼吸器のセッティングで顕著に見られる。

肺保護的な換気の目的は、1回換気量をより少なくすることで肺胞の過伸展を減らし、また高いPEEP圧を用いることで末梢の小さな気道を開くことにある。

どの程度の1回換気量なら許容範囲なのかについては、まだ一定した見解が無い。

現在いわれているのは、人工呼吸器モニター上の圧-容量曲線で、気道内圧が upper inflection point を超えた場合は明らかに1回換気量が過大だということである。Roupieらの報告では、1回換気量を10ml/kg以下に設定した場合、 85%の患者でupper inflection point を超えなかったという。

臨床試験

少ない1回換気量のトライアルは1990年代に2つ行われ、ともに死亡率の低下を見ている。
この結果を受け、虚脱した肺胞を再度呼吸に参加させ、その状態で安定化させることでARDSの病態を改善させうるということは古くから示唆されてきた。いくつかの動物実験、臨床試験では、こうした"open-lung"の考え方を用いた呼吸管理手法はARDSの予後を改善させ、ICUの滞在期間を短縮させた。

1959年に、Meadらは犬を用いた実験を行い、人工換気を長期間施行すると肺のコンプライアンスは進行性に低くなり、またこうした変化は肺のサーファクタントシステムの変化によりもたらされると報告した。

人工換気による肺サーファクタントの欠乏は、以下の機序により発生するといわれている。

機械換気は肺胞のI I型上皮細胞の働きを刺激し、肺サーファクタントの産生を促す。こうして作られた肺サーファクタントは、肺胞の虚脱とともに気管内に押し出されてしまい、肺胞の物質透過性が亢進してしまう。この結果、肺毛細血管から肺胞内への液体成分の漏出が生じ、肺の浮腫が生じる。

人工換気や原疾患の進行により肺サーファクタントが欠乏した肺胞は、バクテリアの進入を許し、また炎症細胞のサイトカイン放出の場となる。

高いピーク気道内圧と、低いPEEP圧はともに肺からの炎症性サイトカインの放出を促す。ピーク気道内圧を買えずに10cmHO程度のPEEPを加えるか、あるいはピーク気道内圧を下げることで、サイトカインの放出量を減少させることが出来る。

現在、肺は単なる呼吸器疾患の進行の舞台ではなく、多臓器不全の引き金を引く炎症性サイトカインの産生の場であるという認識が広がりつつある。人工呼吸器のついている患者においては、肺胞の虚脱を招くような不適切な人工呼吸器のセッティングはそれ自体が予後悪化の因子となる可能性がある。

理論上は、虚脱してしまった肺胞を再び膨らませるためには60〜70cmHO の圧力が必要とされる。しかし、肺の直径が大きくなればなるほど、同じ気道内圧であれば肺の表面張力は低下する。すなわち、一度虚脱した肺胞を広げてしまえば、より少ない気道内圧の変化で換気が出来る可能性がある。

ちょうど、風船を膨らませる際、小さな直径から膨らませるときには大きな力が必要だが、一度大きく膨らませてしまった風船には意外に簡単に空気が入る。肺と風船とは完全に同じではないものの、高いPEEP圧を維持することで、肺胞へのダメージを最小限にしながら最低限必要な1回換気量を維持できる可能性が出てくる。

人工呼吸器を用いて肺胞を開くためには、従来の従量式の換気様式よりはPCVのほうが有利である。虚脱し肺胞が再度開いた際、その開存を維持するためにはより多くの空気が必要となる。

供給される空気の量があらかじめ設定されている従量式の呼吸に比べ、PCVは新たに換気量が必要となった場合は即座に呼吸器から空気が供給される。

ARDSを生じている肺は、さまざまな部位に小さな無気肺を生じている。最近のARDSのガイドラインどおりの小さな1回換気量を用いても、虚脱した肺胞のbarotrauma や炎症性サイトカインの産生を押さえることは難しい。

ARDSの人工呼吸管理において、早期から虚脱した肺胞を再動員し、またそうした肺胞を開いた状態で保ちつづけることの重要性は、十分に強調されているとは言えない。

"Open lung"という考え方は、Lachmannらが最初に提唱し、今まで多くの議論を生んできた。ここでいうOpen lung とは、肺内のほとんど全ての肺胞が呼吸に参加している状態である。こうした状態を保つことで、肺内の右左のシャントは減少し、酸素化は改善しうる。理論上は、こうした状態が保たれた場合、100%酸素吸入下ではPaOは450mmHgに達するはずである。

この考えかたどおりの呼吸管理が出来るようになったのはまだこの数年のことで、ここで用いられるのがPCVである。

具体的には、Pressure-controlled ventilation モードを用い、ピーク気道内圧を40〜60mmHgとし、吸気/呼気の比を 1:1から2:1とすることで、虚脱した肺胞が再度呼吸に動員されうる。

再動員が成功したかどうかは、同じ気道内圧での1回換気量が上昇したかどうか、また血液ガスデータが改善したかどうかで評価できる。

この後、ピーク気道内圧は1回換気量が減少しない最小限の値まで下げられる。たいていの場合、一度開いた肺胞を開いた状態に保つのに必要なピーク気道内圧は、人工換気開始時の圧よりも15〜30cmHO 程度低い値である。

PEEPはこの間、呼気時に肺が虚脱しないよう、10〜20cmHO に維持される。

こうしたアプローチを取ることで、小規模な臨床試験では、22名のARDS患者において死亡率は10%、従来どおりの管理方法に比べて有意に多臓器不全が少なかったと報告している。

"Open lung"アプローチが優れた結果を出せた理由としては、この方法は平均気道内圧が高くなる代わりに吸気時と呼気時との気道内圧の差が少なくてすむため、barotrauma と biotrauma とが少なくすんだためと考えられている。

肺保護的な換気

肺保護的な換気モードの大規模試験としては、2000年のARDSnet の報告がある。このスタディーでは、従来の換気群の呼吸器セッティングを1回換気量12ml/kg、最高気道内圧を45〜50cmHOとし、"保護的な"換気群のセッティングを 1回換気量を6ml/kg、最高気道内圧を25〜30cmHO以下になるようにコントロールした。

PEEPについては、両グループともFiOに応じて(図)4〜15cmHOに設定された。

患者はARDS患者861名を対象とし、結果とて有意な死亡率の低下(コントロール群39.8%、保護換気群31%)をみた。人工呼吸器装着期間、他の臓器不全を合併する頻度とも、保護換気群のほうが少なかった。

患者ごとの比較で、両群で同じPaOを得るためには保護換気群のほうがより高いPEEPを必要とし、またより高いFiOを必要とした。

barotraumaの合併頻度や、筋弛緩薬の使用の頻度については両群で変わらなかった。

このスタディについては批判もあるが、小さな1回換気量で出来る限り気道内圧を低く保つという呼吸管理方針自体は現在の主流になりつつある。

このスタディで大事なのは小さな1回換気量だけではなく、比較的高いPEEP圧が用いられている点にも注目する必要がある。1回換気量を小さくするだけでは酸素化の改善は望めず、進行する肺胞の虚脱と二酸化炭素の貯留を招いてしまう可能性がある。

実際、このスタディでの"保護換気"群では、PaOを低くするために頻呼吸にすることは認められており、保護換気群のほうが1回換気量は少なかったものの換気回数は多かった。さらに、このスタディの条件で換気を行うと内因性のPEEPが高くなってしまい、実際に設定したPEEP圧以上の圧が患者の肺にかかっていた可能性もある。逆に、このことが患者の予後を良くした原因の一つになったという指摘もある。

逆相換気(IRV)

急性肺障害に陥った肺は、正常な換気が可能な肺胞と、コンプライアンスの低い肺胞とが混在している。

このため、通常の吸気時間では病的な肺胞を十分に膨らませることが出来ず、酸素化が悪くなってしまう可能性がある。

この現象は、吸気時間を通常よりも長くすることで解決できる。IRVは、吸気/呼気の比(I:E)を1以上に保つ換気の方法であると定義される。

こうした換気の方法は、PCVで吸気時間を延長していくか、あるいは従量式の換気で吸気時間を延長し、漸減型の吸気フローに吸気時のポーズを併用することで実行することが出来る。

吸気時間を延長することで、平均気道内圧と1回換気量をもとの値に維持したままでピーク気道内圧を減少することができる。この換気モードはまた、死腔換気を減らすことで血液ガスの値を保ったままで1回換気量を減らす効果も期待できる。

こうしたIRVの効果が実際に現れるためには数時間を要し、またこうした換気モードがもっとも有効なのは虚脱した肺胞を再動員可能な急性肺障害の発症早期になる。

実際、ARDSの患者の予後を推定しうる値の一つに死腔換気率が報告されており、死腔換気を減少させるIRVはARDSの予後を改善させる可能性がある。

IRVの問題点

吸気時間を増加させると、当然呼気時間は短縮する。

呼気が十分にできないままで次の吸気が開始されると、肺胞内にエアートラッピングを生じ、気道内圧が上昇する。これは"内因性PEEP"といわれる。この現象は肺胞の過膨張を生じ、気胸の合併を増加させる可能性がある。

また、内因性PEEPの増加により平均気道内圧は上昇し、心拍出量の減少や酸素運搬量の減少を生じうる。こうした現象は、とくに吸気/呼気比を4:1以上にした際にみられる。

IRV施行中は1回換気量を減少させることが多いため、PaCO2 の上昇もしばしば見られる。一方、血液中の二酸化炭素濃度については IRVの開始によりむしろ減少する、という報告もある。

さらに、IRVは生理的な換気ではないために、患者の同調が難しい。このため換気中のセデーションの量は通常の換気よりも上昇し、しばしば筋弛緩薬が必要になる。特に、従量式の換気でIRVを行った際には患者の同調が悪いと気道内圧が極端に上昇することがあり、注意が必要である。

IRVの臨床試験

IRVの効果を裏付ける臨床試験はほとんどない。

酸素化の改善効果は、単純に内因性PEEPの増加による平均気道内圧の上昇のためであると考えられている。

このため、IRVと通常の換気モードとの直接比較はPEEPの値を正確にそろえることが難しいため、評価することが難しくなる。

いくつかの小さなスタディでは、IRVをARDSの患者に施行したが通常モードの換気に比べてIRVの優位性を証明できなかった。このスタディでは人工呼吸器が外から加えたPEEPと、内因性PEEPの合計値が両群でそろえられていたため、 IRV群でも酸素化の改善効果が得られなかったために優位性を証明できなかったと考えられている。

また、こうしたスタディでは、患者の呼吸器のモードを変えてからその効果を評価するまでの時間が30〜60分程度と短く、 IRVの肺胞動員効果が証明できなかったのだという意見もある。 IRVのこうした効果が出てくるには24時間程度必要、としている初期の報告がある。

このように、IRVの効果はまだ確立してはいないが、この換気モードは比較的シンプルに実行可能な方法であるため、血行動態の安定している患者で、通常の換気モードでは十分な酸素化が得られない場合には試してみる価値がある。

2004年11月18日

Ventilator associated lung injury

人工呼吸器による副作用(Ventilator associated lung injury 以下VALI)が最初に報告されたのは、1745年のことである。

VALIの正確な原因はまだ解明されていないが、その原因として挙げられているのは以下の3つである。


Volutrauma(容量損傷)

気道の周期的な虚脱

Barotrauma(圧損傷)

Volutrauma

過大な1回換気量により肺胞が過伸展されると、肺の浮腫を生じ呼吸機能が悪化する。この減少は、病的な肺ではより早くから生じる。

容量損傷は、過大な換気量による肺の毛細血管に対する直接的な障害の結果生じるといわれている。肺胞が過伸展された結果、肺の毛細血管の透過性が亢進し、肺胞周囲の水分の貯留を生じる。この肺胞周囲の水分と蛋白質は、肺から分泌されるサーファクタントの作用を障害し、結果として肺のコンプライアンスを低下させてしまう。

ARDS患者の場合、患者の肺のCTを撮ってみると肺は以下の3つの状態が混在していることが分かっている 。

完全に虚脱し、呼吸に参加していない肺胞

吸気時には空気が入るが、呼気時に虚脱する肺胞

正常な換気を行っている肺胞

このため、ARDSの患者の場合は正常な人に比べて換気している肺胞の数が少なく、たとえ常識的な1回換気量で換気を行っていたとしても、患者に残っている正常な肺胞には過大な1回換気量になってしまう。


周期的な気道の虚脱

ARDSで病的になった肺胞の一部は、換気にあわせて開放した状態と虚脱した状態とをいったり来たりする。この状態により生じる肺の損傷は atelectraumaと呼ばれている。

この、周期的に生じる気道の虚脱、開放は肺胞にダメージを与える。この運動により、肺胞内のサーファクタントは気管側に流出してしまい、虚脱した肺胞を再び開放するためにかかる圧力は肺胞の内皮細胞を障害する。


Barotrauma

Volutraumaの考え方以前に主流だったのが、気道内圧が高いこと自体が肺に障害を与えるという考え方である。

肺に過大な圧力を与えると肺の内皮細胞は障害されるが、この働きが病的な肺でどれだけ肺障害の成立に関与しているのかはまだ議論がある。

原理的には、Barotraumaは1回高い気道内圧で換気しただけでも生じうる。


肺以外の臓器への人工呼吸器の副作用

ARDSを生じた患者の多くで多臓器不全を生じるが、この原因の一つが人工呼吸器であるという考え方がある。最近の動物実験からは、人工換気により以下の2つの状態が引き起こされると考えられている。

炎症性サイトカインの増加

肺を通じた細菌の進入

炎症性サイトカインの増加

ARDSの患者には多臓器不全が合併することが多いが、これは多臓器不全に伴ってARDSを生じるのではなく、 ARDSに陥った肺、あるいは人工呼吸器による肺障害自体が多臓器不全を引き起こす引き金になるという考え方がある。

ARDSやALIの状態になった肺には、好中球をはじめとした炎症細胞が多数浸潤している。このため、肺を通過した血液にはこうした細胞から分泌された炎症性サイトカインが多量に含まれ、これが多臓器不全を引き起こす原因の一つになっていると考えられている。

この現象は、実際のARDSの患者で混合静脈血と肺静脈血1とを比較した報告で、肺静脈血のほうが血液中の炎症性サイトカインが多かったことでも確かめられている。


肺を通じた細菌の進入

動物実験の結果ではあるが、人工換気により気道内圧が上昇した肺胞からは、細菌の血管内への進入がより生じやすいという報告がある。肺胞の浮腫、肺胞サーファクタントの欠乏などがその原因と考えられている。

2004年11月17日

ヘルメットマスクによるNIPPV

helmet.jpg

非侵襲的陽圧換気はさまざまな呼吸器疾患、特に免疫不全状態にある患者の急性呼吸器疾患の予後の改善に役立ってきた(挿管すると合併症の頻度が上昇するからか?)

しかし、従来急性期に用いられてきたフルフェイスマスクによるNIPPVでは患者の認容性が不十分なため、今回新たにヘルメット型の非侵襲的陽圧換気デバイス(写真)が試用されている。

Noninvasive Ventilation by Helmet or Face Mask in Immunocompromised Patients

この報告では19人の免疫不全患者の急性呼吸不全に対してヘルメット型のマスクを用いて陽圧換気が行われ、その認容性と効果が過去にフルフェイスマスクを用いて治療された同様な疾患の患者と比較された。

結果、挿管回避率はヘルメットマスクで37%、フルフェイスマスクで47%と大差がなかったが、一方で酸素化の改善と開始後24時間までのNIPPVに対する認容性はヘルメットマスクのほうが優れていたという。