2007年1月31日

怠惰な内科はイベント・ドリブンで病棟を回す

朝回診

医局を出て、いつもすぐに病棟。急変があれば、夜でもすぐに携帯電話が鳴るので、 前情報なしでもそれなりに何とかなる。

「今日はこの検査しましょう」とか、「薬出しときますね」とか。患者さんを回りながら、 いろいろ約束。メモしないから、2割ぐらい忘れる。

患者さんには、あらかじめ「忘れるかもしれないから、話が動かなかったなら、 看護婦さんにも確認して下さいね」と 「頼れない医者」をアピールしておく。そうすると、昼までには「あの話どうなりました?」と ナースルームに問い合わせが入るから、病棟で「またあいつかよ…」と毒づかれながら、 ドクターコールが入る。

入職して半年、看護婦さん達もようやく、 「この医者全然信用できない」というのが浸透してきて、 主治医の頭を補ってくれるようになった。

回診の後、ナースルームでオーダー出し。

  • ○○さんは吐き気があるそうです
  • ○○さんが3日排便がないそうです

患者さんとの約束をロストしても、看護婦さんサイドからこんな声を聞けば、やることは一緒。

特定の症状や要望に対して、1人の医者の医者が取る行動なんて2パターンぐらいしかないから、 かなり高い確率で行動は一致。外れたとしても、患者さんに「主治医は頼りにならないよ」と 保険をかけて、冗長性を確保してあるから案外大丈夫。

昇圧薬の調節とか人工呼吸器の調節みたいに間違えると危険なものは、 オーダーだけじゃなくて自分でやる。

自分でやっておいて、メモを張ったり、患者さんと看護婦さんとに後から報告したり。

仮に報告を忘れたとしても患者さんが知らせてくれたり、みんなが忘れたとしても、 とりあえず「量を調節する」というタスクだけは果たされる。

報告を忘れると、外来中にも「○○さんの薬の量が変わっているんですが、知りませんか?」という 問い合わせがガンガン入る。ここで逆切れするとイベント駆動はできないから、 「すいませ~ん」なんて軟らかく謝罪。

外来

朝からけっこう忙しい日に限って、「今日必ず検査のフォロー」なんて記述をカルテに見つける。 1ヶ月前の自分からのメッセージ。聞いてねぇよ、ていうか今日忙しいんだから最初から 先月やれよ>俺。

過去の自分に悪態つきながら検査。そういえば先月も忙しかったんだよな、やる気ない時期で、 今月に飛ばしたんだよな、とか。余計なことを思い出しながら検査。

外来も何十人目かでいいかげん疲れてきて、お昼も目前になってくると、 やっぱり「来月の自分」へのメッセージ。

  • 次回コレステロールをフォロー
  • 次回家族を交えてムンテラ
  • そろそろフォローの紹介状を
  • 次回までに診断書

どうせまた来月ドツボって、過去からのメッセージ読みながら一人怒り狂うのは分かってるけど、 これをやると「今の自分」は大助かり。ごめんね>来月の自分。

お昼休み

「○○さんと○○さんと○○さんの御家族がお見えです」

いきなりPHSが鳴る。トリプルブッキングとか、全然聞いてないよ。

これもまた、3日前の自分と、2日前の自分と、昨日の自分のしわざ。 お前らいいかげんにしろとか怒ってもしょうがない。自分のせいなんだから。

看護婦さんが気を利かせてくれて、みんなの時間を微妙にずらしているから大丈夫だけれど、 そこまで気が回るんだったら、トリプルブッキングになった時点で一言あると、 もっとありがたいんだけどな。

昼休み全滅のまんま、午後回診。

午後のカルテ書き

デューティーがない日は、夕方の回診済ませて、カルテ書き。

温度板見て、カルテをみると、昨日の自分からのメッセージがいろいろ。

  • 右脇腹の皮疹のフォロー
  • 頭痛2日め。3日続いたらCT
  • 次腹痛あったら胃カメラ勧める

回診でみてない事ばっかり。そのつど病室とナースルームとを往復。

病棟で、整形外科に入った下級生から「先生、○○さんみておきました」と呼びとめられる。 何のこと?知らない。と思いながらカルテを見直すと、「本日セ外依頼を」なんてメッセージ。

依頼だけ出して、紹介状書いてないや。依頼したことすら忘れてた。温厚な後輩を持てて幸せ。

気がついたことをカルテにメモしながら、思いついたことは翌日の自分への手紙にしてカルテに記載。 そろそろ面談組もうとか、まだ早いけれど、熱下がったら検査を組もうとか、そんなこと。

明日の同じ頃、それ読んだ自分がまた「聞いてねぇよ」と驚いて、そしてまた同じこと の繰り返し。

まとめ

記憶力が無いに等しいので、昔からこんなやりかた。 ルールは4つ。

  • 過去からのメッセージには絶対従う
  • ちょっとでも気がついたことは必ず未来に手紙を書く
  • その日宛の「手紙」は絶対その日に消化するか、翌日宛に手紙を書き直す
  • みんなとうまくやる

普段の仕事は反射神経で対応するし、何か気がついてもすぐ忘れちゃうから、 それはカルテにメモをする。記憶を保持するのは自分以外の誰か。いつも自分は誰かから 何か「シグナル」を入れてもらって、受動的に行動して病棟を回す。

経過で見ないといけない人は、たいていは病棟の主任クラスの看護婦さんが把握しているから、 相談しながら経過を討論。コメディカルの人の言うことは、当たっていることも、外れていることも あるのだけれど、相談しないよりは相談したほうが何倍も正確。

「この医者は信用しちゃいけない」ということを周囲が分かってくれるという前提があって、 自分的に理不尽な呼ばれかたをした時にもキレたりしないで、医師、コメディカル、患者さんの 交渉チャンネルがちゃんと確保されてさえいれば、こんなやりかたはけっこううまくいく。

コメント

>現場のノウハウ
現場を回す知恵というのは、たぶん理解しにくい横文字で表現できるものではなくて、
こんなグダグダしたものなんだと思うんですよね…。
学会みたいな型式じゃなくて、某巨大掲示板みたいな雰囲気の場所の方がいいのかもしれません。

こんな感じで現場のノウハウを蓄積してマニュアルを作れたらいいですね。過労死リスクも訴訟リスクもコントロールできるようになるかなあと期待します。

お世話になります。。。

わかる、わかる、わかる、わかる。こんな感じわかります。忘れても、診てなくてもその後、医師とのコミュニケーションのリズムが良かったりすると、結構おもしろかったりします。

おはようございます。
適切なハンドシェイクのプロトコルさえ実装可能なら、実世界でも非同期型ネットワークの運用は
うまくいく…なんて書くともっともらしく聞こえる(そうでもない?)のですが、実際はグダグダ
手を抜いていったところが今のやりかたに落ち着いたような次第。

>>イベント・ドリブン
田舎の病院で、30人くらいの入院患者さんを(うち2人レス付き)、あたかも曲芸の皿回しのように回している先生がいましたが,成る程こういう感じでした。その先生も、適度ないい加減さが持ち味でした(病棟スタッフの総意)。でもこれ、地頭がよくないと、なかなかできません。
>>みんなとうまくやる
新規抗癌剤でケモしてると、外来中に薬剤師さんからPHSがかかって、「Yさんの好中球、少ないんじゃないですか?」なーんて病院は、良い病院です。薬剤師さんが仏様に見えます。

外来カルテに 「この次の受診時に患者に余裕があったら ○○をしてもらう」 と書いておき、検査伝票をはさんでおくと
気が利いた外来看護師さんに当たると 待ち時間が長くなりそうな場合には うまく時間の割り振りをしてくれて、うまくすると患者さんに会うときには その検査結果の説明までできたものですが、
最近 残念ながら そうしたありがたい心遣いが 全くなくなってしまいました。。。 
余裕が無くなってしまったんですね。

どうしたんですか、先生がグチとはめずらしい。と思ったらちゃんとまとめがあるんですね。さすがです。

>過去からのメッセージ
こういうやり方があるんですね。
私もチャレンジしてみます。

しかし、過去からのメッセージが辛いことだけというのも悲しい気がします。
「今日はボクの誕生日!」
なんてメッセージはどうでしょう?
・・・人によっては悲しくなるだけかもしれませんが。

似た事してます。
学生時代に先輩に
「一ヶ月前の自分は他人である」
といわれました。
プログラムの保守にあたってのセリフでしたが、
今になって実感してます。

みんなけっこう同じことやってると思うんですけどね…。
退却というのか、後ろ向きに前進というのかの違いみたいな。
治療プロトコルなんかも、「エラーが入る可能性」を最初から組み込んだ、
あんまり追い込まない、もっとルーズな奴が出来てもいいと思うんですが。

あ、なんか私と非常に似ていますねー。
自分の記憶力が悪いってわかってるから。
なんでも、看護師に言っておくんですよね、私も。
カルテにもいっぱい書くし。

>「この医者は信用しちゃいけない」ということを周囲が分かってくれるという前提

き、きついっすねー。
一応、信用はできるけど、記憶力は良くないってイメージにさせてますけどね、私は。


コメントする