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2006.10.01

凄いのにそう見えない人

本当に仕事ができる人というのは、一見すると何も仕事をしていない ように見えるのかもしれない。

できるほど透明になる

最近、ベテランの医事課のスタッフが一人、退職された。

適当にやっておいて下さい」が通用した、数少ない人だった。

何か特別な資格を持っているとか、ものすごく大きなプロジェクトを成功させたとか、 そういう武勇伝みたいなものはなんにも無くて、淡々と医療事務をこなすだけの人。

でもすごい。仕事が快適。

事務仕事というのは複雑怪奇で、医者をやっている側からすればできれば近寄りたくない。

ああしたい、こうしたいという思いが医療者側にあっても、行政側にはその制度が無いとか、 それをやるためにはなにか特別な申請が必要とか。医療事務は、 そのあたりをすり合わせる能力が問われる。

医療と行政。

2つの世界の「橋渡し」をする仕事というのは、それが上手な人であればあるほど、 その人の存在が透明になっていく。

ああ」したいとか「こう」したいとか、医療者側があいまいな概念を放り投げても、 上手な事務方は、それを行政に伝わるように言語化してしまう。 あんまりスムーズだから、医事なんかいないように仕事がすすむ。

上手でない事務方が間に入ると、その人の「活躍」が、嫌でも目に入る。

あいまいな言葉を放り投げても、「具体的に、どうすればいいんですか?」なんて返事が返ってきたり、 行政からの返答も、こちらの意図とは微妙に異なってみたり。

概念の言語化や、行政サイドとの折衝。

こういう仕事は、お願いする側からもよく見える。 「この人、使えねぇな」と思うよりは、「この人は仕事ができる人なんだな」とか、誤解しやすい。

本当に上手な人は、このあたりの「仕事」が、ごくわずかしか存在しない。 医者からすると、「ほら、俺の言ったとおりになっただろ」という気分になるから、 快適なんだけれど、その人の活躍は感覚しにくい。

乱暴な人は評価される

一時期評判になった、病院再建のプロ。

あの人の「再建戦略というのは非常に簡単。とにかく急患を受け入れて、 病院の窓口をきれいに改築して、職員の給料を引き下げて…といったもの。

どこの病院にいっても、やりかたはだいたい同じ。

現場は大混乱。その人の「仕事」ぶりというのは嫌でも感覚される。 「使用前、使用後」の違和感がものすごいから、その人はたしかに大活躍して いるように見える。

実際には、その人が去ったあとの病院は、もう悲惨なことになっているらしいけれど。

「病院をなんとなく改革したい」という、病院経営者のあいまいな概念と、 再建請負人が実際に施行する、現場を変える様々な戦略。

あいまいな概念を単純化して考えるとき、そこに情報の欠落が生じる。本来は不都合な欠落。 ところが、依頼人に感覚される仕事の量というのは、たぶんこの欠落の大きさに比例する。

本当に上手な再建人がいるとしたら、その人が現場にはいっても、 一見何も変わらないように見えるはず。 再建人の考えかたは、ウィルスのように感染する。 中の人も気がつかないうちに、現場の空気はだんだんと変わり、 業績が上がる。そんなふうに「効果」が現れる。

現場はきっと、「その人がいなくても、自分達だけでも同じことがやれた」と錯覚する。 再建人に依頼した県の役人も、たぶん「わざわざその人を呼ばなくても、 現場が変わるのは時間の問題だった」と総括するだろう。

認知的複雑性の定量化

あいまいで複雑な概念を、単純化しないでそのまま処理する力というのは、 こんなふうに評価が表に出てこない。

退職してしまった事務の方も、たぶんその人の優秀さみたいなものは分かりにくくて、 たとえば転職するにしても、その力を分かってくれる施設は少ないのかもしれない。

たぶん、ある種の職業では、本当に優秀な人というのは空気みたいな存在で、 あんまり目立たなかったりするのだろう。

今流行の成果主義なんかは、こうした人の「凄さ」を発揮する場を奪い、 組織内の空気がますます殺伐としたものになっていく。

会社や組織、個人といった機能単位には、「複雑なものを複雑なまま処理する能力」 というパラメーターがあって、それは、中の人には評価ができない。

それを評価するのには、組織の外にあって、集合知の力を借りることができる存在でないと、無理。

株式相場というのはたぶんそのひとつ。

投資家という職業に何か社会的な役割を求めるとしたら、こうした外からは見えにくい、 「分かりにくいけれど結果を出す」能力や存在を可視化するという部分なんだと思う。

プログラマーで投資家のDan さんが以前、 たぶん同じことを書いていた気がするけれど、 会社ごとの評価単位を個人のレベルにまで解体して、 こうした能力に正しく価値を付加して、「頑張っている人が正当に評価される」 社会を作ろうなんて思ったら、たぶんこういう人があと10万人、日本で実働している 医者の数と同じぐらいは絶対必要。

ところが、誰かの能力を査定するには、査定者にはその人以上の能力がいる。

で、それだけの能力を持った人を10万人も集められるなら、 日本政府も「いい社会」なんか目指さないで、 さっさと世界征服でもはじめたほうがよっぽど簡単に 理想郷が作れるかもしれなくて…。

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すごいことをなんでも無いように、淡々とこなしていく人を10万人集めて、世界征服。 でも征服されたはずの側は、征服されていることに気がつかなかったりして。 だから、その存在が透明化した組織に、もう征服されているのかもしれない。

PG(と歌手)に関するこの記事と同じように、現代の優れた医師が力を発揮するには、 たとえば7名のサポートスタッフが必要ということはないですかね。 http://local.joelonsoftware.com/mediawiki/index.php/%E9%96%8B%E7%99%BA%E6%8A%BD%E8%B1%A1%E5%8C%96%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%A4

コメントありがとうございます。 「透明な人」というのは、たぶん何かの仕事のリーダー役の人の力を、そのまんま増幅させる ような働きかたをするんじゃないでしょうか。

一人のリーダーに2人の「透明人間」が張り付くと、その人が体重3倍、手足6本の モンスターみたいな人間になって働き出すという…。

hama 様 Joel on Software は単行本持ってるのですが、これは知りませんでした…。

ううむ…唸りました。 確かに、事務方の透明人間、いそうです。 私は大学事務しか知りませんが、ここを読んで、誰かが”複雑なものを複雑なまま処理する能力” でなんとかやってるからこそいままでなんとか動いて来たのだとなんとなく感じます。

そのあたりの環境が独立行政法人化でどうなったかは知りませんが…

医師がJoel本を読んでるっていうのも一風変ってますね どのへんが魅力なんでしょうか。 PGの世界はある意味で医業と対極であって、作業の抽象化レベルの高さと 自分自身が提供するサービスのスケーラビリティが極端に高いからかな。。 ※医業は究極のオーダーメイドみたいなもんですし

コメントありがとうございます。

独立行政法人化 うまくいっている部分半分、みんな派遣会社の人に代わってしまって、崩壊した部分半分 というところでしょうか…。もともと公務員組織だから、一番代わってほしい人達は しっかり残ってますし。

Joel 本 どんな職種の人でも、今までのシステム管理のノウハウ本に限界を感じていて、なにか 新しい考えかたに触れたい人は、たぶんみんなPG 関係の本に行きつくような気がします。 抽象化が進んでいるぶん、戦略の幅が大きくて、試行錯誤の量が半端でないですし…。

>抽象化が進んでいるぶん、戦略の幅が大きくて、試行錯誤の量が半端でないですし

ふーむ、なるほど。 案外、プログラマーが最も力を発揮する環境と 医師が最も力を発揮する環境は、突き詰めていくと 似通った物になるのかもしれません。

※そうなると、医師の為の「Peopleware」が出版、提唱されてもおかしくないはずなんですが、、、実はもうあるのかな?

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