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2006.03.27

エビデンスの集積の先に真理はあるのか

次に誰かが大切そうなことをお前に言うとき、自分で考えるんだ。 「これは証拠によって人が知ることができるようなことなのだろうか? あるいはこれは伝統や、権威や、お告げによってただ人々が信じているようなことなのだろうか?」って。 そして、次に誰かがお前に何かが本当だと言うとき、こう言ってみたらどうだろう。「どんな証拠があるの?」って。 satolog: 信じてもいい理由と信じてはいけない理由より引用

ゴールなき勉強に意味はあるのか

研修医の頃は、エビデンスに基づいた治療が大好きだった。

動機は不純。

「先輩、いまどきこんなペーパーも知らないんですかぁ?」と上級生に喧嘩を売るのが 何よりも面白かったし、自分の発言が周囲に真理として伝わる満足感もあった。

嫌な奴だったし、友達も少なかった。論文は人を裏切らない。 そんな理由でEBMが好きな人、案外多いんじゃないだろうか。

一応勉強も好きだった。やりかたはこんなかんじ。

  1. 問題になっている分野の教科書を読む。
  2. その分野の新しめの論文を読む。
  3. 論文に基づいて解決法を考える。
  4. 上級生に喧嘩を吹っかける…

証拠を重ねていけば、やがて成長して真理に辿りつける。そんな童貞臭いことを考えていた。

今は逆だ。「エビデンスに基づいた…」が大流行の昨今。「証拠」ぐらい胡散臭いものは ないと思ってる。

体験したことのない問題にあたったとき、今はこうしている。

  1. まずやったことのある人に「どんな感じか」聞く。
  2. 誰でもいいからベテランに「どう思うか」聞く。
  3. 自分なりに「多分こうだろう」と考える。
  4. Medline を当たって、自分に味方してくれそうな論文を探す
  5. 周囲を説得するか、力で押し切る。

大事なのは成功体験。たとえ一人であっても、「直したことがあるよ」という人の実体験。 証拠なんか2の次。直せれば後からついてくる。

「証拠」を本当に信じていいのか?

証拠には序列がある。

我々の業界では、もっとも重要な証拠は前向きのランダマイズドトライアルで、 中程度のものが過去の事例の集積で作った論文。 もっとも軽視していいのはベテランの意見。 さらに、評価の対象にすらならないのが、ベテランでない人が「とりあえず直したことがある」 という成功体験だろうか。

証拠の評価にもまた、厳とした順位付けがある。

もっとも優れた評価は、Nature とか NEJM といった有名雑誌に掲載されること。 評価の下を見ればきりがないけれど、2ちゃんねるあたりに自分の考えを書きこんで、 「お前すごいな」と言ってもらえたりすると、けっこううれしい。

証拠というのは、本当に信じていいものなのだろうか?

重要な論文、大事な証拠というものは、それが発表されると多くの人の価値観を 左右する。

残念ながら、「証拠」の価値が上がれば上がるほど、その証拠が利権や思惑から 自由になるのは難しくなる。

過去の事例を集めて何かの結論を出すスタディなら、まだ訂正も効く。

  • 過去の事例自体は結論の出ている事実。
  • 事実の集積を解釈したのは論文の作者。

確かな部分と、ツッコミどころが明確に分離しているから、誰が見ても分かりやすい。

問題なのは前向き研究だ。

スタディをやる前から、論文の作者の頭の中には「こうあってほしい」という結論めいたものはある。 ところが、実際にそのとおりになるのかどうかは、実際にスタディをやってみないと分からない。

ある治療、ある薬に効果があるのかないのか。

想定している結論により、その解釈は微妙に左右される。患者は死んだが効果はあった。 あるいは、病気は治ったけれど、それは他の原因だろう。いろいろ。

建前では、前向き研究には「ゴール」と呼べるものはない。あくまでも条件をそろえた対照群を 用意して、その人達に何かの治療を施して、結果がどう変わったかの事実だけを見る。

作者の判断や、思惑は「事実」という言葉の陰に隠れる。どこまでが思惑で、どこからが 掛け値無しの真実なのかが分からないから、結論をそのまま信じるしかない。

エビデンスを集積して正しい治療に辿りつこうとするのは、レンガで塔を造って、 天に上ろうとするようなものだ。

レベルの低い証拠は、粘土で作った柔らかいレンガ。レベルの高い証拠は、石のように堅いレンガ。

柔らかいレンガは変形するので、修正が効く。塔は水平を出しやすいけれど、高く上るには 強度が不足する。堅いレンガは強度があるから、基礎に据えるにはもってこいだ。 ところがこいつは、たいていの場合微妙に歪んでいて、その修正が効かない。 塔の基礎は丈夫にできるけれど、塔がいよいよ天に届くかな…という頃、塔は傾いて倒れてしまう。

続きはまた。

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このエントリーに対するコメントと言うより,あくまでも一般論です. そのつもりで聞き流していただければ幸甚です.

いつの間にか医療界に「EBM」という言葉だけ広まってしまったけれど,思いのほか中身は10年前とたいして変わらず知られていない気がします. 「Evidence-Based Medicine」と「evidence-based medicine」の違いとでも言いましょうか.

狭義のEBMは専門にトレーニングする必要がある非常に定型的な行動様式です. そしてそれは「目の前の患者さんによりよい医療を提供する」ための一つの(ただし有力な)手段にすぎません.

その独特の行動様式を学ぶための入門書は,和洋いろいろ出ている中でも ・名郷直樹「続 EBM実践ワークブック窶剥。、できる限りの医療を」医学書院,2002. を私はお勧めします. 小さな薄い本ですが「謙虚なEBM」に触れることができます. EBM実践者にとっては一番大事なevidenceが前向きRCTではないこともお分かりいただけるかと思います.

駄文,失礼いたしました.

ついでに言えば 別に10年前に始まったことでもなく、おそらく 20年以上の昔には problem solving clinical judgement clinical epidemiology などと言われていたものなのではないのですかね、と思います。

論文は人を裏切らないか? 多くの論文には 虚偽がある というのも事実ではないでしょうか。ある程度のことには目をつぶらないと 論文にはならない。現実そのままでは採用・掲載してくれないので、仕方がなく、手が加わる。 どこまで行うかは、倫理もさることながら、考え方次第でもある。いかに本質的なことを抽出するかは、科学ではあるが、ある意味では哲学でもある。

論文を細かいところまで検討すると、ボロが沢山出てくるということはあるが、 頭の良い著者が書く論文は 矛盾がないように 否定が出来ないように つっこむ隙を与えない書き方をするので、実は困りものです。採用・掲載されやすいので、論文が出るのだが、真実かどうかは誰もわからない。(書いた本人は 真実だと思っているので。) 論文の査読 これもスルーしてしまうことがいくらでもあります。

大規模なRCTの中には製薬企業が金を出しているものも少なからずありますよね。循環器領域で頭文字を苦しい語呂で読ませるようなものが。

RCTを完遂するに足る資金を公的ファクターからの研究費だけでは得ることは難しく、スポンサーたる民間企業に頼る面も大きい。

そして、企業が時として「エビデンス」を作る。そして、それが臆面もなく論文として一流紙に載る。それを錦の御旗にした診療がなされる。

MRにとっては、EBMに疎い一般の医者はいいカモでしょうね。自分の会社の焼き印がついたエビデンスであっても、鵜呑みにしてくれるわけですから。企業からみたときの戦略的広告の一つがエビデンスなのかなと思えてならない昨今です。

内科勤務医です。さん まさにその最初5行もよく見られる誤解ですね. Clinical epidemiologyはEvidence-Based Medicineの母ではありますが,そのものではありません.

Biasの吟味が非常に大事だということには激しく同意です.

Anonymous : 2006年03月28日 19:58さん Sponsored trialであることは非常に大きなbiasですよね. ま,日本に限らず世界各国ほぼ全ての学会がsponsoredなので,なかなか大企業の利益に反する知見は出てきませんが.

管理人さんを差し置いての議論すみません. 失礼いたしました.

皆様、コメント&EBMのド素人への補足をありがとうございます。 EBMについては多くの誤解があって、本当のEBMを根付かせたい人と、EBMという言葉だけを 借りた「俺様医療」を普及させたい勢力があって、どちらかというと後者の人達のほうが声が大きな 現状があって。 どちらも同じ「EBM」という言葉を用いるから、余計にわけが分からなくなるのですが、 本稿では誤解されているほうのEBM、本来の意味とは違うほうを「EBM」という言葉を代表する 意味として用いています。 もちろん、筆者がEBMが嫌いで、そもそもその本来の意味すら理解していないことにもよるのですが、 なんといってもそのほうが文章が面白くなるので…。

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