2004.12.24
人質交渉
人質を取った犯人との交渉のテクニックは、我々の現場でのさまざまな交渉ごと、たとえば退院を渋る家族の説得や、治療の結果についていろいろクレームをつけてくるような人との交渉にも応用できそうな気がする。ただ、そうしたノウハウを実際に公開している組織は少なく、なかなか参考になる資料がない。
「静寂の叫び」は小説だが、こうした人質交渉のテクニックについて詳細に記されている。どこまで本当なのかは小説なので分からないが、それでも参考にはなると思う。
紙の真中に線を引き、左側には「約束」、右側には「嘘」と書いておく。交渉人が犯人に約束すること、嘘をつくことをすべてそこに書いておく。嘘つきの名人になるには優れた記憶力が必要とされる。 犯人の目的はテロリストとは違う。誰かを殺すためではなく、自分が逃げることだ。十分な時間を与えてやれば人質というものが極めて厄介な荷物であることに気がつくはずだ。 犯人と人質は、なんとしても一緒にしておかなくてはならない。 交渉担当者は、できるだけ人質の事を話題にするのを避けなくてはならない。人質には取引材料にするほどの価値はないのだと、犯人たちに思わせるためだ。 相手が話しにのってくるかどうかが常に最初のハードルとなる。無口な犯人こそが危険であり厄介なのだ。 人質解放交渉は、繰り返し妥協の限界を試していくことにほかならない。交渉を続けていく中で、単刀直入な要望はしばしば驚くほどの確立で聞きいらられるものだ。頼み事をした後は、ただじっと黙っていればいい。 相手に対して自発的に寛容な態度に出ることで、相手を守勢に立たせることができる。相手に借りを作ることで、攻守の立場を入れ替えることができるかもしれない。
もちろん患者さんは犯人などではないし、クレームの内容と人質とはまったく質が異なる。
しかし、こうした交渉ごとの技術について、医療従事者はあまりにも無知であり、他の業種からこうした交渉ごとのテクニックを学ぶ必要はあるように思う。
基本的に医師は患者に対して何一つ強制力を持てず、治療の拒否もできない。退院にしても、相手が納得しなければこちらから強制的に退院日を決めることなどできない(某国立病院など、某首相の御母堂は10年以上も個室を占拠していた)。
今の状態はいわば「やられっぱなし」なのだが、それでも数年前までは患者様サイドの良識にすがり、何とか機能していた。今は違う。有名人の高齢者介護の手記の中にも「いろいろ調べてみると、介護型の病院よりも急性期病院に長く入院したほうがコストが安く、看護の質も高いことが分かった。主治医と交渉し、今の病院にずっとおいてもらうことにした。」などという記述が平気で書かれる。
介護保険の実質的な給付削減も本決まりになり、今後はますます退院のムンテラは厳しくなる。なにしろ治療が上手くいって、短期間で退院にまでこぎつけたところで、家族からしてみれば「余計なことしやがって。もっと長く入院させろ。」と言われる時代だ。
医者は神様じゃないし、政治にコミットするのも趣味じゃない。技術者らしく、与えられた状況の中でベストを尽くすことを目標に働いてきたが、退院のトラブルに対しては正直限界に近づきつつある。