Home > 12 月, 2004

2004.12.30

ブービートラップ

ゲリラ側の攻撃手段のひとつに爆弾を用いたブービートラップがある。ベトナム戦争で多用されたものであるが、米軍側のあまりの犠牲者の多さのためにブービートラップを踏むパターンが解明され、マニュアル化された。医療過誤の防止策に通用する部分もあるかもしれない。

基本原則

ドアは慎重に。可能ならば、使わずに別ルートを使用するのがベスト 敵の予想を超えたルートを使用する(梯子で2階の窓からや、通気口、天井裏など、敵の進路予想を裏切るようなルート) 不用意にそのへんにあるものに触れない(触れる時は入念にチェック。触れる必要のないものは触れずに無視)

予防方法

地雷やブービートラップの脅威に対抗するための最も効果的な方法は、源を断つ、つまりVC/NVAの地雷工場及び工場に対する物資の供給源を排除することである。

敵工場の機能を失わせるよりも重要なのは、敵が工場を運営できないように物資の供給源を絶つことである。すなわち、米軍の爆発しなかった砲弾、廃棄された装備や破壊が不適当な廃棄物などだ。事実、物資や再利用可能な廃棄物は、幾つかの要因で敵の手に渡っていることが明らかになっている。

爆発しなかった砲弾

第一の要因は、自由主義軍の航空、火砲、および艦船による火力支援の実施によって与えられ、敵にとって重要な供給源になる不発弾である。砲弾のいくつかは起爆せず、不発弾となって地雷やブービートラップになる可能性がある。海兵隊によって実施されるあらゆる火力支援が、こうした要素になるとみなすべきである。任務遂行のために必要以上の火力を要求しないよう注意せよ。

廃棄された軍需物資

第二の要因は廃棄、あるいは遺棄された軍需物資で、これもまた敵の地雷戦にとって重要な爆発物の供給源になる。以下の例に示すような事は、敵の活動を助けることになる。 過剰供給。過剰な供給が行われた部隊に、基本装備のみでの急な移動を要求する。残りの弾薬は、放棄されてその場に残る。 弾薬の利用手続き。部隊がASP(弾薬補給所)に余剰弾薬を戻そうとした際、手続きの不備によって宙に浮いた弾薬。 弾薬の濫用。部隊が土、汚れ、泥などの修復できる状態やささいな欠陥のために放棄した弾薬。 輸送による喪失。弾薬の再補給任務中のヘリコプターが撃墜されると、一部、もしくは全ての荷物がその地域にばら撒かれる。

個人でできる対処

腕や足を車両の外に出さず、土嚢による最大限の防御効果を得る。 他の者に対して適度な距離を保つ。 一人で行動しない。 「土産物」として魅力的に見えるような品物に触ったり、持ち上げたりしない。VC/NVAは、海兵隊員の好奇心や土産物を家に持ち帰りたがる性質を利用しようと狙っている。 バディシステムの使用。このシステムは、未熟な海兵隊員を引っ張っていくのに役立つだけではなく、システムの利用者に更なる安全率を与える。2名の海兵隊員が同一地域で一緒に行動することで、発見能力が増加し、相互に安全を保証し、情報を共有できる利点がある。

(続きを読む…)

2004.12.29

退院交渉のノウハウ

人質をとって立てこもった犯人との交渉技術は自分たちの領域でも応用できそうなものが多い。

患者さんやご家族は犯罪者ではないし、要求が「病気が良くなること」であるうちは、医師と利害が相対することなどありえない。しかし、要求が「できる限りの入院期間の延長」である場合、話は違ってくる。

病院というところは一度入院してしまうと、医療者側に退院の決定権はない。「強制退院」などは、実際にやろうとすれば大変な覚悟が必要で、退院後に何かあったら必ず大きなトラブルになる。

転院先の老健施設はコストが高いわりに人手が少なく、サービスは十分に行き届かない。急性期病院は保険も効き、スタッフも十分そろって安心。家族はすべて「お任せ」にしておけば、何から何まで面倒を見てくれる。

高齢者の入退院を何度か繰り返せば、ほとんどの家族は急性期病院の長期間入院がもっとも「お得」であることを見抜いてしまう。大体、老健施設は解除の人が1日2回見回るだけで1ヶ月に40万円、救急病院ならバイタル4検体制であっても医療費は事実上タダ。どちらが得なのか、誰でもすぐに分かることだ。

東京の人は何が正しいのかを見抜くのが早い。都立の病院などでは、退院のムンテラをすると弁護士が付き添ってくる。高いお金を出してサービスの悪い老健に移されるぐらいなら、弁護士を雇って都立病院に2-3年置いてもらったほうが家族としてもはるかに安くつく。患者の予後も多分そのほうがいいだろう。困るのは医療従事者だけ。これをやられると病院がパンクする。

実際問題、本気で開き直った家族に退院のお話をしても医療者側にまったく勝ち目はない。まだかろうじて白衣の力が効く相手、医者を怒らせると「強制退院」が本気で執行されるかもしれないと思っている家族には、まだなんとか交渉の余地がある。このあたり、警察よりも我々のほうがずっと交渉の分が悪い。

以下、普段気をつけるようにしていること。

まずは聞き役に徹し、家族に話をさせる。相手の家の事情、困っていることなどとにかく口をはさまず聞く。お互いの連帯感情を構築するためには必須である。売り言葉に買い言葉ほど危険なものはなく、とにかくまずは聞く。 怒りながらムンテラにのぞんだ家族であっても、その精神の緊張状態は30分ほどで終わる。この間聞き役に徹していると、だんだんと落ち着きを取り戻す。交渉はこのタイミングを見計らい、アプローチしていく。 交渉者が医者としての権威的な立場を崩さないと、家族は絶対に抵抗する。相手の感情を逆なでせず、問題を一緒になって解決する存在であることを認識させなくてはならない。 大きな声でしゃべるのは問題外で、相手との公平な立場を構築することができず、家族と医者との間に明らかな力関係を作ってしまう。家族も大声で対応しなくてはならず、心理的にも抑圧されてしまう。相手を疲れさせれば勝ち、という考え方は絶対に通用しない。 人は誰でも、第一印象を基準に物事を判断する。退院日のことだけを気にかけている素振りを少しでも見せると、家族は敵意をむき出しにする。話題の中心は患者さんの病状にするべきで、穏やかに接することが大切である。 家族の話し方に、交渉者も口調を合わせる必要がある。相手に合わせずに一方的な話し方や言葉遣いをすると、その気はなくとも教育水準や環境の違いを馬鹿にされたり、見下された印象を相手が持つ可能性がある。(これには全く逆の意見もあり、医者が口調をくだけさせてはいけないという人もいる。)

2004.12.28

医者・医学のことわざ

医師は幸福な職業である。 太陽がその成功を讃え、大地がその失敗を覆い隠す。 今は全然違うけど・・・

医学の歴史は数え切れない屍の上に成り立ち、 死に対して敗北のみの歴史である。

喰わないデブはいない。

CPC で正しく診断するための法則は、CPCでのみ通用する

研修医にはYesしかない。

研修医に許される発言

はい わかりました さすがでございます

最強の科はどこか

内科医はなんでも知ってるがなにも治せない。 外科医はなんでも治すが何も知らない。 精神科医はなにも知らないし何も治せない。 病理医は何でも知っているしなんでもできる。ただし遅すぎる。

精神科当直医の心得

精神科の患者は眠ってくれればただの人。 内科の患者は眠っていてもやっぱり患者。 or 精神科患者は眠ってれば死なない。 内科の患者は眠ってても死ぬ。

First of all, make stable the

Airway Breath Circulation

of the Doctor.

医療ミス発生時の医師心得。

To be

A:Apathy B:Blind C:Closed mouth D:Deaf and E:Engage an attorney

年功序列の中で生きるための「さしすせそ」

さ:さすがですねえ し:しりませんでした。勉強になります。 す:すいません せ:せんせーのおかげです そ:(なにか手技を披露した後で)そんな、こんなの大したことじゃあありませんよ

津軽海峡冬景色の曲で

医者で初の 胃癌手術 ついた時から 胸腔内は 血があふれ オペに向かう 人の群れは 誰も無口で モニターだけを 聞いている 私も一人 ハーケン引きながら 止まりそうな ヘルツ見つめ 泣いていました あああ あーーー 左開胸 胃全摘

もしもし。ようこそ、精神科ホットラインへ。

強迫性障害の方は、1をおしつづけてください。 共依存の方は、誰かに2をおすように頼んでください。 多重人格の方は、3,4,5,6をおしてください。 偏執・妄想の方、我々にはあなたが誰で何をご希望かつつぬけです。 おつなぎしますので、そのままお待ちください。 精神分裂病の方は、耳を済ましてよくお聞きください、 小さな声がどの番号をおせばよいか教えてくれるはずです。 不安症の方は、#(パウンド・キー)をいじくり回していてください。 代表が電話口に参ります。 健忘の方は、8を押し、お名前、ご住所、電話番号、お誕生日、 ソーシャルセキュリティ番号、そしてお母様の旧姓を言って下さい。 PTSDの方は、ゆっくりと慎重に0,0,0とおしてください。 短期記憶の障害をお持ちの方は、9を押してください。 短期記憶の障害をお持ちの方は、9を押してください。 短期記憶の障害をお持ちの方は、9を押してください。 マゾヒズム性の方は、0を押してオペレーターをお待ちください。 現在あなたの前に、200人ほどがお待ちの方がいらっしゃいます。 鬱病の方、あなたは何番を押されても大差ありません。 誰も、応えませんから。

ある産婦人科研修医同志の会話

研修医A「おまえ昨日、癌の手術のコウ持ちで入ったんだって?」 研修医B「うん。初めてあんな大きな手術見たよ。」 研修医A「明日オレ入るんだけど手順教えてよ。」 研修医B「うん。子宮の上の方はいつもと同じなんだ。      それからリンパ節廓清に入って、ケリー!ケリー!      って叫んで、最後は胸部外科を呼べばいいんだ。」 研修医A「へぇ縲怐B案外簡単なんだな。」 研修医B「でもその後が大変で、、、、、あ、お焼香の時間だ。」

2004.12.27

急変に強くなる

病院で仕事をしていると、患者の急変、家族の急なクレーム、医療事故等予想し得ない自体が生じることはよくある。このときに人がどう行動するものなのかを知っておくと、万が一のときに役に立つ。

災害時に見られる人間の行動には特徴がある。すなわち、人は何をすべきかを指示してもらいたいのである。自分で選択したり決断したりすることはできなくなり、権威主義的な人物の指示を望む。手術やCPR等、チームで事に当たっている際に予想できなかったようなトラブルに出会うと、チームメンバーの意識は患者でなくチームリーダーに集中する。ふだんならなにか良い代替案が出てくるようなケースであっても、急な自体であればチームリーダーの発言がすべてである。

パニックは、脱出ルートが閉ざされた場合のみ発生する。以前はパニックは群集が集結するところではどこでも起きると考えられてきたが、近年は別の見方をされるようになった。パニックは、危険に追われて逃げようとする人がいて、目の前の避難路や脱出ルートが閉ざされている場合のみおきやすい。

医療の現場では、たとえ急変があっても自分の仕事を指示してくれるリーダーがいるうちは皆それに従い、とりあえずチームは崩れず動きつづける。体を動かしているうちにチームは徐々に落ち着きを取り戻すが、リーダーが崩れると烏合の衆となり、患者は死ぬ。

こうした事態を避けるためには、どうしようもない場合にとにかく時間を稼ぐ方法、よく言われる「挿管してステロイドを静注して、何かカテコラミンをつないでラクテック全開」を本当に行うだけで大体1時間は持ちこたえられる。あとは、リーダーがこうした「汚い治療を避ける美意識」を思い切り良く捨てられるかどうかにかかっている。

パニック状態になった群集は、他人を犠牲にしても自分だけは助かろうとあがくと考えられてきたがこれも否定されつつある。絶望的な状況下であっても、社会の基準やしきたりは失われず、人々の行動に強い抑制力を持つことが最近の貿易センター爆破事件の避難事例などから分かってきた。SARSが大発生した年、北京の病院でも看護人はすべて志願制であったが、感染を恐れて病院を離れた職員はほとんどいなかったという。

(続きを読む…)

2004.12.26

過誤を減らす方法

失敗のメカニズム-忘れ物から巨大事故まで

エアバスA310墜落のケース。エアバスはコンピューターと人間が相反する操作をした場合、コンピューターを優先する設計だったことが災いした。ボーイングは逆。しかしどちらが究極的に正しいのかは分からない。

思い込みの効果は恐ろしい。「管制官がオーケイ。離陸の用意をして待て。また連絡する。」と伝えたところが、機長にはオーケイと離陸の部分しか入らなかった。結果、空港内で飛行機の衝突を生じて583人が亡くなった。

以心伝心を信用してはならない。着陸途中の飛行機での事故。オートパイロットで飛行中に表示灯が消灯。ランプ切れだったためにパイロットがその交換をしている際に誤ってオートパイロットが切れ、高度が下がり始めた。異常に思った管制官が「そちらはどうなっている?」とたずねたが、パイロットはランプのことだと思い「だいじょうぶだ」と返答。飛行機は墜落して99人が亡くなった。管制官が「高度はどうなっている?」とたずねていたら、状況は違ったかもしれない。

意味のない数字やアルファベットの羅列を伝達するのは困難である。国鉄時代にはABCDを「アメリカ」「ボストン」「チャイナ」「デンマーク」といっていた。米国では「アダム」「ボブ」「チャーリー」「ドナルド」と伝えるらしい。数字に関しては自衛隊の呼称が有名。「12:30作戦開始。」を無線で伝えるのは「ヒトフタ、サンマル、状況開始。」である。

ミスを防ぐための構造が最初から組み込まれている機械がある。製造業で使うプレス機は、左右のスイッチを同時に押さないと作動しない。両手を使わないとできない作業なので、プレス機に手を挟むことを防ぐことができる。医療現場ではCTがそう設計されている。スキャナーの角度を変更するスイッチは中にしかないので、必ず患者のそばにいないと操作ができない。このことで、機械が患者をつぶすことが無いよう配慮している(某社のは離れたところから簡単に角度変更ができる。子供のCT撮影を見たことがない人が設計したとしか思えない。)。

機械やシステムに異常が発生すると、安全な方向に作動する設計をしているとエラー対策は強力になる。昔の腕木式の信号機は遠くからワイヤーで操作したが、ワイヤーは一定の確率で切れる。ワイヤーが切れると信号機は「止まれ」のまま静止するようにできており、ワイヤーを修理するか、係員が手信号を出すまではすべての列車は停止せざるを得ない。

危険な状態を検知し、警告が出たら停止するシステムは警告ミスから事故を生じる危険をはらんでいる。係員が監視して異常があったら連絡するシステムでは、深夜帯や注意力の乏しい係員が担当のときは警告が出せない可能性がある。一方、常に安全を確認しつづけ、安全が確認されている間だけシステムが働く「安全確認型」システムはこうしたことが生じにくい。観光バスの車庫入れ時にはガイドの人が「ピッピー、ピッピー」と笛を吹き続けるが、この音が止むと車は止まることになっている。ガイドの人が笛を落としたり、あるいは車に轢かれたりして笛をふけなくなったとき車は自動的に止まり、事故を避けられる。

事故が生じないのを前提でシステムを組むと、万が一のときの対応が全く考えられなくなったり、また事故がおきたときに隠蔽するような圧力が働いてしまう。JCOの臨界事故なども、会社側に「事故など生じない」「原子力は絶対安全」という前提があったため、事故対応が遅れた。

(続きを読む…)

2004.12.25

誰にも出来ない技術

大学卒業後に市中病院で研修。4年ぐらいお世話になってから一度外の世界を見てみたいと思った。

それなりに忙しい病院でそこそこ働けるようにはなったが、他の病院の人たちに比べて自分がどの程度の医者なのか、この業界はそういった指標が何もない。4年目といえば、まだまだスタッフの実力には遠く及ばないものの、何とか自分に降りかかってくる火の粉は払える程度の力。

まだまだインターネットもろくに普及しておらず、卒業後の同級生の動向も同窓会報を見る以外には全く分からなかった頃。

自分も一応循環器の医者を名乗っていたので、とある循環器系の大学病院を選択。最初はすぐに外病院の働き手として出されるはずだったが、一応面白い奴と思われたのか、そのまま外の病院へ出ることなくずっと大学にとどまっている。

卒業大学でもなく、もちろん医局に友人一人いない状況。自分がこれといった特徴のない、平均的な医者であったならば今とは立場は違っていたはず。

初対面同士、自分がどんな人間で、どんな技術を身につけていたのかをアピールするのに一番役に立ったのは、一見ゴミの山にしか見えないレスピレーターの部品の山から1本の呼吸器回路を作り出せることだった。

こんなものは、本来はMEさんの領域の仕事。べつに特別な知識がいるわけでもなく、単にブロックを積み重ねるように回路を作るだけのことなのだが、こんなことでも実際に回路を組み立て、それを患者さんにつけた経験がないと同じことはできない。大学病院には臨床工学技師の数が少なく、また呼吸器の回路を組んだ経験のある看護婦さんも病棟にいなかった。

前の病院での研修医時代、別にこんなことばかりやっていたわけではない。カテも数百人やらせてもらったし、呼吸器管理、透析、分娩、果ては胃全摘や胆摘の術者なども一応形だけはできる。でも、同じことができる医者は大病院に行けばいくらでもいる。形だけ全部できると称する医師がいても、それぞれの専門家に頼んだほうが安全、確実。ゼネラリストの出番などない。

“何でもできます”というのは、アピールのやりかたを間違えると”なんでも中途半端にしかできません”といっているのと同じになる。そう思われた後のゼネラリストの人生は悲惨で、実力は十分なのに寝たきり老人の話相手以外に仕事のない(それもまた大事な仕事なのでしょうが)一般内科医はたくさんいる。

何かひとつ、専門家集団の誰もが知らない知識を持っていると、自分という医者を初対面の人に紹介するときに非常に役に立つ。それは医学の知識とは限らないし、自分の得意分野とも限らない。大事なことは、研修期間中に入ってくる知識や経験を限定せず、とにかく何でも学ぶことだと思う。

人工呼吸器の全身管理のしかたではなく、呼吸器回路の組み立て方など研修医にとっては”ゴミ”にも等しい知識なのかもしれない。だが、少なくとも自分にとっては大学の中での自分の立ち位置を作ってくれた非常に貴重な知識だ。

2004.12.24

人質交渉

人質を取った犯人との交渉のテクニックは、我々の現場でのさまざまな交渉ごと、たとえば退院を渋る家族の説得や、治療の結果についていろいろクレームをつけてくるような人との交渉にも応用できそうな気がする。ただ、そうしたノウハウを実際に公開している組織は少なく、なかなか参考になる資料がない。

静寂の叫び」は小説だが、こうした人質交渉のテクニックについて詳細に記されている。どこまで本当なのかは小説なので分からないが、それでも参考にはなると思う。

紙の真中に線を引き、左側には「約束」、右側には「嘘」と書いておく。交渉人が犯人に約束すること、嘘をつくことをすべてそこに書いておく。嘘つきの名人になるには優れた記憶力が必要とされる。 犯人の目的はテロリストとは違う。誰かを殺すためではなく、自分が逃げることだ。十分な時間を与えてやれば人質というものが極めて厄介な荷物であることに気がつくはずだ。 犯人と人質は、なんとしても一緒にしておかなくてはならない。 交渉担当者は、できるだけ人質の事を話題にするのを避けなくてはならない。人質には取引材料にするほどの価値はないのだと、犯人たちに思わせるためだ。 相手が話しにのってくるかどうかが常に最初のハードルとなる。無口な犯人こそが危険であり厄介なのだ。 人質解放交渉は、繰り返し妥協の限界を試していくことにほかならない。交渉を続けていく中で、単刀直入な要望はしばしば驚くほどの確立で聞きいらられるものだ。頼み事をした後は、ただじっと黙っていればいい。 相手に対して自発的に寛容な態度に出ることで、相手を守勢に立たせることができる。相手に借りを作ることで、攻守の立場を入れ替えることができるかもしれない。

もちろん患者さんは犯人などではないし、クレームの内容と人質とはまったく質が異なる。

しかし、こうした交渉ごとの技術について、医療従事者はあまりにも無知であり、他の業種からこうした交渉ごとのテクニックを学ぶ必要はあるように思う。

基本的に医師は患者に対して何一つ強制力を持てず、治療の拒否もできない。退院にしても、相手が納得しなければこちらから強制的に退院日を決めることなどできない(某国立病院など、某首相の御母堂は10年以上も個室を占拠していた)。

今の状態はいわば「やられっぱなし」なのだが、それでも数年前までは患者様サイドの良識にすがり、何とか機能していた。今は違う。有名人の高齢者介護の手記の中にも「いろいろ調べてみると、介護型の病院よりも急性期病院に長く入院したほうがコストが安く、看護の質も高いことが分かった。主治医と交渉し、今の病院にずっとおいてもらうことにした。」などという記述が平気で書かれる。

介護保険の実質的な給付削減も本決まりになり、今後はますます退院のムンテラは厳しくなる。なにしろ治療が上手くいって、短期間で退院にまでこぎつけたところで、家族からしてみれば「余計なことしやがって。もっと長く入院させろ。」と言われる時代だ。

医者は神様じゃないし、政治にコミットするのも趣味じゃない。技術者らしく、与えられた状況の中でベストを尽くすことを目標に働いてきたが、退院のトラブルに対しては正直限界に近づきつつある。

(続きを読む…)

2004.12.23

退院時の注意

全ての患者が良くなって退院してくれればいいが、内科はそうは行かない。

特に高齢者の割合が増える一般市中病院の場合、家族の希望は出来るだけ長い期間の入院になり、もともとの病気が良くなったかどうかは関係なくなる。

高齢者が入院すると、ほとんどの場合はもともとのADLよりもアクティビティは落ちる。介護する家族の負担はそれだけ増え、家族の退院への意欲もますます落ちていく。

こうした家族に退院のお話を持ちかけた瞬間、今まで築き上げてきた医師‐患者の信頼関係は消失する。点滴を間違えてしまうといった致命的なものから、ムンテラの時間に遅れる、食事から嫌いな物を抜くのを忘れるといった日常生活レベルの物まで、入院期間中には何らかのミスは必ず生じるが、退院のムンテラを聞いた後の家族にとっては全ての医療者のミスは入院期間延長の交渉材料となり、また医師に対する不満の種になる。

退院日の決まった患者さんというのはもはや急変する可能性はきわめて低く、通常はそれほど注意を傾けなくても大丈夫なものであるが、こうした高齢者の慢性疾患の人を退院させる場合、退院前の最後の数日間に生じたミスは後々とても大きなごたごたに発展する可能性があり、注意を要する。

2004.12.22

警察からの紹介患者

民間の病院に長く勤めていると、刑務所からの紹介患者を受ける機会がある。

警察組織にも医療刑務所はあるが、そこは17時以降は患者を受けない。

受刑者が医療機関の職員を傷つけてしまった場合、その病院が公立病院であれば新聞が黙っていない。一方、受刑者を民医連系の病院に紹介しようものなら、朝○新聞と○旗が黙っていないだろう。

結局こうした患者は、当院のような社会的な権力とは無縁の病院に救急搬送されることになる。

こうした病院の職員なら、万が一殺されたところで署長がティッシュボックス一箱持って詫びれば終わり。事件から2週間もすれば笑い話だ。

で、毎年2-3人はこうした患者が当院に深夜に紹介されてきた。患者さんのはずなのに不思議と重篤感はなく、視線は殺る気まんまん。腰縄に手錠。ついてくる婦警さん(なぜかいつも女性だった)のやる気の無さも全開。

「きっとこの人たちは、僕たちが殺されるまで何もしてくれないんだろうな。」というのは、診察しなくても態度で十分分かった。

自己防衛のために気をつけていたのは以下のとおり。

尖ったものはおかない。筆記具はフェルトペンを使用し、カルテも表紙をつけずに(金属がついているので)紙一枚を使用。舌圧子は木製のディスポのものを使用する。 ボールペンや鉛筆は絶対に身につけない。凶器にされる。 循環器用の重い聴診器は武器になるので、看護用の軽いものを使用する。首をしめられる可能性があるので、管の部分は傷だらけのものならなおいい。 診察中は患者さんから視線をそらしてはいけない。このためにも、長い聴診器の使用を心がける。 白衣のポケットの中は原則として空にする。ポケットに視線をそらした際、相手から何をされるか分からない。 ネクタイは外す。白衣の前ボタンもすべて開放し、相手に首をつかまれないよう注意する。 間違っても護身用の武器を持とうなどと考えてはいけない。彼らのほうがよほど強いし、事件になったらマスコミは凶器を持っている側の敵に回る。

刑務官の人たちは銃を持っているが、絶対に使われることは無い。たとえ刑務官の目の前で医者が犯罪者に絞め殺されようと、犯罪者に対して発砲して新聞ざたになるぐらいなら、医師を見殺しにするほうを選ぶ。「病院で罪も無い服役囚を刑務官が射殺」のほうが、「病院で医師が殺される」よりも○日新聞的にはよほど読者受けする記事になる。

女子医科大学や日本医科大学などでヒットマンが患者を射殺したりする事件が時々報道されるが、なぜこうした事件がいつも私立の大学なのか、公務員という人たちを理解できればすぐわかる。独自のメディアを持っていない組織など、公務員組織から見ればただのカモだ。危険なことが怒りそうな患者は、最初から「民間人」しかいない病院に送られる。

自分もようやくそうした人たちの中に割り込むことができたので、いまは安全地帯からこうしたことを書き散らせるのだけれど。

2004.12.21

医師国家試験対策委員会のこと

もう歴史を知っている人もほとんどいないと思うので。自分が経験したことも、国対委員の長い歴史のうちほんの1年だけなので、信憑性についてははなはだ疑わしい。

黎明期、医師国家試験のセキュリティがまだまだ甘かった頃、試験問題を作った先生方の卒業試験、臨床講義のプリントなどから全く同じ問題が出題されるといったことが本当にあったらしい。単に出題症例がどこかで習ったような患者さんだった、といったレベルから、某講義で配られた「24問目は頭蓋骨の写真が出ていたら回答はB」といった異様に具体的な情報まで、さまざまだったらしい(昭和50年代以前)。

当初、情報といえば東大1本だったようだが昭和50年は東大卒業生が一人もいない…。このころからさまざまな大学から少しずつ情報が出回る、以後の状態に近くなっていく。

当時はまだまだ全国区で情報を共有しようなどという働きかけはなく、学生が個人どうしで情報(?)を交換し合う程度。大手の体育会の主将経験者などが、全国大会(主に東医体か?)を通じて知り合った各大学の同級生の臨床講義プリントをコピーして学年で回していたらしい。試験前夜になると一部の学生、一部の大学のみに出所のはっきりしないプリントが出回り、受験生の疑心暗鬼ぶりに拍車をかけていたという。こうした怪しげな情報は非常に問題になったらしいが、国試にかかわる学生はほとんどが来年には卒業してしまったため、なかなか情報の共有には至らなかったようだ。

動きがあったのは昭和60年に入るかどうかのころ。当初は関東近郊の医学部が試験プリントを交換する会を作ったらしい。この会の情報の出所は、ほとんどが某大手国立大学。数年間は上手くいっていたが、当の受験生のセキュリティ意識はまだまだ甘く、国試終了後にプリントを駅のごみ箱に捨てる輩が続出、それをマスコミが報道するに至って大手大学が情報交換会からの撤退を表明、話は振り出しに戻る。

その後も情報交換の会は続いたが、最大の情報提供元が撤退して以後は情報量も激減、国試委員の存在意義も薄れ始めたころ、気を吐いたのが某私立大学。コンパ(死語)等で培った人間関係を生かし、撤退した某大学の試験情報プリントを入手、大学ごとの「物々交換」のような形でこうした情報が出回る時期が数年続く。

こうした情報の恩恵にあずかれたのは、それでも関東周辺の一部大学のみ。そもそも国試の問題作成をしている先生の居られない大学では物々交換に参加できるわけもなく、とくに東北地方以北の大学は焦燥感にかられていたらしい。

そのうち、「東北地方の某大学情報」なるプリントが国試前に流れるようになったが、これは関東地方の情報との物々交換前提で作られたフェイクの情報プリントであった(らしい)。こうして本当の情報プリント、偽のプリント等が大学ごとにランダムに出回ることになり、国試前夜の情報は混乱を極めるようになり、全国区の国試対策委員会ができるようになった。

全国規模に展開した国試委員会は、しばらくの間は安定して機能した。情報プリントには「秘密のアッコちゃん」「楽園通信」などといった名前が付けられ配布されていた。「腹腹時計」「新しいビタミン療法」「球根栽培法」などの名前が復活してこなかったのは、委員に医学連関係者が一人もいなかったためか。

国試委員の中には臨床医のキャリアを捨ててフルタイムの出版業務に乗り出した方もいたり、委員会の規模も徐々に大きくなったがそれと同時にマスコミの注目も大きくなっていく。

「医学生は、国試前に全国委員を作って集団でカンニングをしているらしい」という話を聞きつけ、毎年のようにさまざまなマスコミから取材要請がきていたようだが、そんな取材などだれも受けたくはない。皆自分のことで精一杯だった。

委員会の規模の増加、そしてマスコミ対策の強化のために国試委員の装備は年毎に重装になっていく。インターネットや電子メールなど無い時代、連絡の手段といえばFAXのみだった。国家試験の2日間に発行されるプリントは数百枚、普通の家庭用の機械で対応できるわけもなく、レンタルするのは業務用のコピー機兼用のもの。そんなものを置けるスペースなど大学にはなく、またマスコミから身を隠すために本部は大学とは別に設置する。

たいていは、国試数日前に架空名義でどこかのホテルの大きな部屋を借りる。そこにNTTから電話回線を3-4本レンタルしてFAXを接続、その連絡先は各大学の国試委員しか知らない。さらに、国試前日から中央の国試委員は弁当を数日分持参した上でその部屋に篭城、国試の翌日までは原則として一歩も外には出ない。ホテルの電話は外してもらい、国試委員のFAX以外の外部からの連絡手段はすべて遮断して国試にのぞむ。

各大学の国試委員は自校の先輩方のホテルの手配、モーニングコール(朝すべての部屋を回って、万が一おきてこない人がいたら何が何でも叩きおこす)といった仕事とは別に、中央本部から送られてくるFAXを各部屋にコピーして届ける。ホテル周辺のコンビニをチェックするのはもちろんのこと、機械の故障に備えて予備のトナー、数千枚のコピー用紙を持参、プリントがFAXされてくるたびにそれをコピーし、各部屋に夜通し配布して回る。徹夜はあたりまえ。

備えは万全…だったはずが、ある年これが破られた。例年どおりホテル缶詰状態で本部設営に入っていた国試前日、国試委員以外知る人がいないはずの国対FAXに某放送局からの取材要請が入ってきた。最初は無視していても、そのうち脅迫文のようなFAXが。「応答が無い場合は、あなた方を密室で集団カンニング行為を扇動している学生集団として番組で告発します」という文面が流れるようになり、この時点で本部のプレッシャーは相当なものになった。

さらにNTTからどう漏れたのか、電話回線のレンタル情報から本部のあるホテルを特定され、たまたまジュースを買いに外に出た国試委員が報道員に尾行され、部屋番号が割れた。ドア一枚越しの緊迫したやり取りが数時間続いた後、結局その年の国試対策委員会は2日目の活動を中止せざるを得なくなる。

マスコミのやり方もあまりにもえげつなかったためか、結果としてそのときの取材の様子は放映されることはなかった。このときの情報漏れについては後々問題になったが、どうもどこかの大学のコピー機に国対FAXの番号が書いて貼ってあったようで、たまたま取材にきていたスタッフがこの番号をメモしていたらしい。

学生ごときに社会的な力などあるわけもなく、マスコミに面白おかしく報道などされた日には自分の首だって危ない。翌年の国試対策の運営をどうするのか、かなり議論があったようだがこのころ以後は自分はかかわっていない(もう受験の当事者だ)。ただ、ほとんどのプリントが業者主導のものになり、現在は昔のような大規模な本部などはなくなり、代わりに国家試験予備校がその役割を果たしているらしい。

実際問題、こうした直前情報プリントなどを熟読したところで「役に立つ」ことなど何もありはしない。これは多分すべての受験生が認めるところだと思うが、どんな情報が回ったところで、落ちる奴は落ちるし、受かる奴は何も見ないでも合格する。

自分が国試対策委員会をやったのは純粋に「面白かったから」。医学生の全国組織は数あれど、国試対策委員会ほどその活動内容が正体不明で、一方大規模に活動していた集団は他になかった。やって得られたものは何もなかったし、自分の受験2日前までホテルの手配や弁当の注文に走り回っていた(正直、受験どころじゃなかった)が、そのときの経験で今役に立っていることなど何一つ無い。ただ、当時の委員はみなこうした「お祭り」を楽しんでいたし、その後2度と同じような経験をすることはなかった。

「秘密情報はみんなで共有すれば秘密じゃなくなる」国試対策委員会の目的はこれにつきる。くだらない情報に振り回されるぐらいなら、もうそれらをすべて配って共有してしまえば情報に振り回されることなどなくなり、自分のしたい勉強に集中できる。日本中の全医学生がバイト代をはたき、インターネットが普及するはるか前からこうした情報の共有を目指していた。動機はともかく、それだけはたしかだ。

(続きを読む…)

2004.12.20

高張食塩水による敗血症治療

Hypertonic saline resuscitation in sepsis

敗血症性ショックの初期には末梢の循環が悪化し、血液ガスが正常であっても組織の低酸素血症が生じる。これが引き金になり、炎症性サイトカインの分泌などを介して多臓器不全が進行、死にいたる。

こうした現象を回避するため、敗血症の初期から可能な限り早く末梢への酸素運搬能を回復させる、early-goal-directed therapyが提案され、予後改善の効果を得ている。

敗血症治療は、年を追うごとに早い決断が要求されるようになっている。

伝統的には、心拍出量の増大と血圧の維持のためには大量の生理食塩水の静注が行われてきたが、この治療には問題がある。特に敗血症の場合、肺水腫の合併や間質の浮腫が問題になりやすい。

輸液により血圧を維持するもうひとつの方法論が、高張食塩水を少量静注する方法である。

この方法は、1980年に7.5%食塩水を犬のショックモデルに用いたのが始まりであるが、同じNa量を静注しても、大量の生食よりも少量の高張食塩水を用いたほうが血圧の上昇が早く、またよく維持されたという。

その後いくつか行われた人体でのショックのスタディでは、高張食塩水の効果は一過性のもののため、この効果を維持するためにデキストランやヘスターチと一緒に用いているものが多い。

だいたい、7.5%の食塩濃度のヘスターチを4ml/kg用い(50kgの人で200ml程度)、これを急速静注するという。

人間のスタディでは、高張食塩水の使用により以下のような現象が報告されている.

酸素運搬量、心拍出量の増加。 肺動脈楔入圧の上昇。 Na濃度は一過性に上昇し、24時間で元に戻る。 末梢血管抵抗は、高張食塩水静注直後に一過性に低下する。

高張食塩水が人体に与える影響は、以下のように考えられている。すなわち、細胞内液から細胞外液への水分の移動、心筋収縮力の増加、末梢の内皮細胞の浮腫の軽減、末梢の微小循環の改善、血液希釈による血液粘稠度の低下、そして免疫修飾効果である。

高張食塩水の血圧に与える影響は、非常に速やかであるが一過性のものである。このために今まで余り注目を集めることが無かったが、敗血症患者の場合は早期に血圧を上昇させ、末梢循環を改善させることには大きな意味がある。

高張食塩水が心拍出量を増加させる働きについては、高浸透圧自体の影響、心筋細胞膜表面の膜の安定化、心筋浮腫の改善効果などが理由として考えられている。敗血症性ショックの急性期では、心拍出量が増加しているにもかかわらず心筋収縮力は低下している。高張食塩水はこうした時期であっても心筋収縮力を上昇させるため、敗血症治療に有効である可能性がある。

敗血症性ショックの急性期には、血管内脾細胞は浮腫を生じ、毛細血管レベルでの循環を悪化させる。このため末梢の低酸素血症が生じてしまうが、高張食塩水はこの内皮細胞の浮腫を低減させる。この投与により、内皮細胞の容積は20%ほど低下し、微小循環が改善するという。

高張食塩水はまた、血管収縮因子の分泌にも影響を与える。この投与により、プロスタサイクリンの濃度はまし、またソロンボキサン群との量の比も増加する。このため末梢血管抵抗は一過性に低下する。高張食塩水の静注直後は一過性に血圧が下がることがあるのはこのためと考えられている。

敗血症や出血によるショックの急性期には全身の炎症反応が亢進し、結果として多臓器不全につながる炎症性サイトカインの分泌が始まる。高張食塩水の投与はこうした炎症性サイトカインの濃度を低下させる働きがある。臨床上の観察では、高張食塩水による輸液管理を行うことで、出血性ショック患者の肺合併症の頻度を減らすことができたという報告がある。高張食塩水の投与により、患者の肺では好中球の賦活化の程度が減少し、BALF中の好中球数が減少し、肺胞へのアルブミンのリークが減ったという。

近年話題になってきた敗血症急性期からの積極的な血行動態維持のストラテジーに加え、高張食塩水による輸液管理を行うことで血圧の上昇効果以外にも免疫系の好ましい修飾作用を期待でき、敗血症の予後をよりよくできる可能性がある。

高張食塩水で市販されているような製剤は無く、また積極的に使用を推薦しているガイドラインも無いが、その辺に転がっているものではメイロンのNa濃度がだいたい6%食塩水に等しい。メイロンをショック患者に用いるとたしかに血圧が急上昇する人がいるが、これはアシドーシスの補正が効いたというより、高張食塩水による効果なのではないかと思う。

(続きを読む…)

2004.12.19

空気培養

MRSAが出ていると、近所の老健は患者を引き受けてくれない。肺炎で入院した高齢の患者さんから、お決まりでMRSAが出現、除菌してもなかなか良くならなかった。

「そんなわけで、なかなか除菌できないのでそこの老健は取ってくれないかもしれません。」と息子さんにお話すると、「先生、真面目に培養などとらなくても構いませんよ。培養をとるふりだけして、”陰性”と報告するなんて、どこの病院でもやってますから」との返事。

この息子さんは、福祉課の職員。

ひどいこと言うなあ。前に、この人に自分の患者(68歳独居の女性。脳出血で半身麻痺)の生保を申請したら、「まだ体でも売れば生活できるでしょう」と追い返されたんだよな。培養を真面目に出たら、この人の生活に少しはダメージを与えられるかなあ。

などと考えたが、素直に「分かりました。そうします。」とお返事した。

医者なんて、病院から一歩でも外に出たら何の力もありはしない。つまらない正義感から公務員を敵に回しても、得られるものなど何もない。

患者はめでたく培養陰性となり、すぐにベッドの出来た(本当は半年待ちなのに)近所の老健に転院していった。

生保をもらえず追い返された患者さんは、結局自宅で訪問看護となった。自立できるわけもなく、尿路感染から敗血症になって亡くなった。

2004.12.17

脳梗塞のリハビリテーション

Plasticity of the human motor cortex and recovery from stroke.

従来型のリハビリが行われてきたにもかかわらず、脳梗塞の機能予後の改善効果はいまだに十分でない。一方、こうしたリハビリテーションの有無にかかわらず、自然に麻痺側の機能が回復していく患者がいる。こうした患者に何が起こっているのかを観察することで、リハビリテーションに新しい目標が生まれるかもしれない。

鍵になるのは脳の可塑性である。

従来、脳の機能は一度固定すると変化しないと考えられてきたが、最近ではやはり可塑性があると考えられている。有名な例は手足の切断等で末梢神経の求心路が遮断されたケースであるが、求心路が遮断された脳の皮質の細胞は、その活動を止めるわけではない。こうした細胞は、まだ機能の残っているより中枢側の手足の情報を扱うようになる。

この結果、脳の細胞の配列は手足を失う前とは変化する。こうした変化がどのくらいの期間で生じるのか、いくつかの実験が行われたが結果はさまざまだった。手足の利き腕を入れ替える実験などでは、こうした神経の配列の変化は5日間程度で生じるとされたが、一方で数年かかったという報告もある。

脳梗塞の回復も、こうした脳の可塑性を利用する形で行える可能性がある。

極端な例では、手術で大脳半球をとってしまった患者の例がある。こうした患者は通常片麻痺になってしまうが、若い患者などでは麻痺側の機能が戻る人がいる。

片脳しかない人に機能MRIなどで脳の働きを調べてみると、麻痺側の刺激に対しても、同側の脳(とられていない側の脳)の細胞が反応することがわかる。こちら側の脳細胞は、本来は健側の手足の動きをつかさどっているはずであるが、健側の動きで興奮する脳細胞とは別に、より前方外側よりに麻痺側の動きに反応する神経細胞の集まりが新たに発生しているという。

こうした脳機能の再配列は、脳梗塞の患者でも生じる。片脳の脳梗塞を生じたにもかかわらずほとんど麻痺を生じなかった患者6名の症例報告では、本来の麻痺側を動かす際にも同側の大脳半球が興奮し、また反対側の小脳半球が興奮していた。これは、脳梗塞に陥った大脳半球の働きを、健側の大脳半球、病側の小脳半球が肩代わりをしていることを示している。

同様に、よい回復を示した脳梗塞患者の病側の大脳半球にも変化が生じる。脳梗塞に陥った脳細胞が再び機能することは無いが、麻痺の回復した患者の病側の脳皮質では、手足の動きに合わせて前頭葉、後頭葉の興奮がより強まることが分かっている。本来手足の動きで興奮するのは主に側頭葉なので、ここでもやはり神経細胞の再配列が生じていると考えられる。

一方、こうした神経の再配列を生じても麻痺が治らない人もいる。これは、健側と病側の脳細胞同士で麻痺に陥った手足の制御を”奪い合って”しまっているからであろうと説明されている。

神経の再配列現象は、手足のような末梢の部分よりも、喉頭の動きのような体の中心に近い部分でより生じやすい。脳梗塞に伴う嚥下障害は、脳梗塞患者の3人に1には生じるが、数週間でかなりな人が自然回復する。このときにも、嚥下の中枢では健側の嚥下の中枢の活動がより高まることで、病側の脳細胞の働きを補償していることが分かっている。

こうした脳の可塑性を引き出すという観点からは、ADLの拡大を目指した従来型のリハビリテーションは間違っている可能性がある。装具の使用などにより麻痺側の働きをより減らし、まだ動くほうの手足の動きを鍛えることで麻痺側への脳の働きはますます低下してしまう。

このため、現在麻痺側の使用を促すための方法として注目されているのが Constraint induced movement therapyである。

この方法は、片麻痺の健側の運動をスリングなどで制限して、患側の運動を誘導しようとする治療法であり、こうすることで体が麻痺側の不使用を学習することを防ぎ、また麻痺側をより活発に使わざるを得ない状況を作る。この方法は、脳梗塞の急性期に用いても、慢性期に用いても従来の脳梗塞リハビリに比べて効果が期待できるという。

同様に、脳の可塑性を促す方法として紹介されているのが課題志向型アプローチと呼ばれている方法で、これは単なる筋力トレーニングを行わせるだけでなく、患者に多くの課題(標的を指し示す、指のタッピング、消去課題、硬貨を裏返す、迷路、ネジを締める、物体の移動など)を含む積極的な訓練プログラムを行ってもらうものである。こうした課題は麻痺側にかなりの運動制御を要求するため、大脳皮質の再構成を協力に促すと考えられている。下肢に対しては同様に、従来型のゆっくりした歩行訓練ではなく、トレッドミルなどの機械を用いて歩行速度に重点をおいた訓練を行うことで、回復がより早まったという報告がある。

さらに、麻痺側の訓練も単に行っただけでは問題がある。通常、麻痺側であっても肩から肘にかけての中枢側の筋力はある程度残っている人が多いため、リハビリを行っても手先の機能を戻すことは難しい。この現象に対処するため、リハビリ中に中枢側の筋に局所麻酔をかけ、手先の運動をより強力に促すことで手の動きがよりよく戻ったという報告がある。

(続きを読む…)

2004.12.16

先輩たちからの言葉(2)

大学病院の大半が、古くから知られた大学が、市中病院の、 そして忌むべき民間資本の手に落ち、また屈服されようとしても、 我々は屈したりしない。 我々は最後まで戦う。外来で戦う。病棟で戦う、オペ室で戦う。 ますます確信を持って、そして強化された高度医療で戦う。 我々の大学を守り抜く。どんな犠牲を払ってでも。 我々は決して降伏しない! 万が一、この大学があるいは大部分が征服されたとしても、 我が帝国は海を越え、腕と知識をもって抵抗を続ける。 そうすれば、神のみぞ知る新世界が、 その力のすべてをもって旧世界の救出に駆けつけるだろう。

1940年6月4日 サー・ウィンストン・チャーチル

研修医に勧めたいことは、ただの三語ですむ。即ち「働け、もっと働け、あくまで働け。」

鉄血宰相オットー・エドヴァルト・レオポルト・フォン・ビスマルク

内科部長「いつ回診できる?」 レジデント「部長殿のご発言が終わり次第。」

—パットン将軍

第一忠誠、第二服従、第三勇気、第四誠実、第五正直、第六同志愛、 第七責任の喜び、第八勤勉、第九禁酒、第十我々が重視し義務 とするものは我らの医局であり我らの病棟部長である、 われわれは他のいかなるものに対しても気を配る必要はない。 他科希望のローテーターは踏みにじれ、打ち倒せ、刺し殺せ、絞め殺せ、焼き殺せ!

「研修医五訓」

一、飯は食うものと思うな 二、病棟は歩くものと思うな 三、夜は寝るものと思うな 四、休みはあるものと思うな 五、上級医は神様と思え

「貴様の体に白衣を合わせるのではない! 白衣殿に貴様の体を合わせるのだ!」

我らが内科の病棟は重症患者を受けている。 外来は救急患者であふれている。 素晴らしい状況だ! さぁ!診察するぞ!

「俺、メス持ったことないのに外科に配属になったんだ。どうしよう?」 「心配すんな。俺だって、心電図読めないのに循内でカテ屋やってんだから。」

「ナニ、忠義の臣ってヤツがいて、国を滅ぼすのさね」

—勝海舟

2004.12.14

溺水の治療

Drowning: a review of epidemiology, pathophysiology, treatment and prevention

かつて溺水の死因としては喉頭痙攣、窒息、水分の誤嚥が主なものであると考えられてきたが、喉頭痙攣が従来言われていたほど高頻度に発症するのかどうかは議論が分かれている。

溺水の初期の実験データからは、淡水の溺水患者はいっ水状態になり、血中のNa濃度が低下し、一方海水の溺水患者は脱水状態となり、血中Na濃度は上昇すると言われてきた。しかしこうした仮説は動物実験のものであり、人体でのデータが蓄積されてからは否定されつつある。

1966年の犬の実験での報告では、溺水の実験犬は一様に低酸素血症、代謝性アシドーシス、高CO2血症を示したものの、血液中の血色素濃度、電解質の変化については海水、淡水を問わずに大きな変化は生じなかったという。

1963年の人体でのケースシリーズでも、淡水溺水の患者には実際にはいっ水になっている患者は多くはなく、溺水患者のさまざまな血行動態の変化にもっとも大きく影響したのは誤嚥した水の性質ではなく、それに付随した低酸素血症の程度であったとしている。

溺水患者の予後については、患者の体温が低いほど予後が悪いことが分かっている。これはおそらくは患者が水に使っていた期間がより長いためと考えられるが、水中での時間が25分を超えたケースの予後は非常に悪いという。小児では、10分以上の水中時間は感度96.6%、特異度89.5%で患者の悪い予後を予想しえたという。

逆説的に、おぼれるならば冷たい水でおぼれたほうが予後がよい。これはおそらく、低体温が神経保護的に働くからと考えられている。

溺水患者の治療

水から引き上げられた患者は、しばしば嘔吐して誤嚥を悪化させる。ハイムリッヒ法などの嘔吐を誘発する手技は明らかな気道閉塞が無い限り行うべきではない。

患者に低体温があった場合、可能な限り早く復温を行う。患者に循環虚脱が合併していた場合、PCPSを用いると有効であるという。

合併する低酸素血症にたいしては積極的な治療を行う。入院当初の胸部単純写真はその後の呼吸器合併症の予後を予測できないため、入院時のレントゲンが正常であっても油断してはいけない。

ARDSに陥る患者は決して珍しくない。対策としてECMOなどが検討されているが、その効果についてはまだ結論が出ていない。肺浮腫を生じたり、感染を合併したりする患者も多いが、予防的な抗生物質投与は予後の改善効果が無かった。また、ステイロドについても肺の機能予後を改善すると信じられてきたが、その効果は証明されなかった。

脳の保護策として、伝統的に過換気、低体温、バルビツール酸投与などが組み合わされてきたが、その効果についてはいまだにはっきりした結論が出ず、ルーチンに行うことは薦められない。

最近の報告では、溺水患者に脊髄損傷を合併することは非常にまれであることが報告されており、明らかな外傷がない患者であればネックカラーをルーチンに装着する必要はないかもしれない。

(続きを読む…)

Next »