便秘の治療

Jun 14, 2002

1  はじめに行うこと

患者の教育  

慢性の便秘の患者にまず行うことは、下剤の過剰な使用を控えさせ、水分および線維成分の摂取が十分になるように 促すことである。

さらに、正常の腸管の運動についての教育を行い、食事を摂取した後に腸の運動が活発になること、 食事をした後に排便を試みること、とくに朝食後は腸の運動が最も活発になるため、 ぜひとも排便を試みるべきである、といったことを話する。

食生活の改善  

食物線維の摂取と、メチルセルロースなどの便容量増加作用を持つ物質の摂取、 さらに水分の摂取は最も生理的で、適切な便秘の治療方である。

穀物の繊維は腸管内のフローラの発育を促し、便の量を増す。また、消化に抵抗することで水分を保持する働きがある。

食物線維の中では、ブランがもっとも有効なもののひとつである。

食物線維の摂取量と、水分の摂取量、さらに便の排泄量との間には、明確なドースレスポンス関係がある。 また、線維の粒子の大きさと便の硬さの間にも重要な関係があり、粒子の大きな食物線維製剤であるほど、 その効果も高い傾向がある。

食物線維の推薦されている摂取量は、1日に20〜35gである。

便の量をを増加させる下剤としては、オオバコの種子、メチルセルロースなどがあるが、当院にはこれに相当する 下剤は置いていない。これらの下剤は効果は少ないが、副作用は少なく、安全性に優れている。

下剤による治療  

  • ベンコールのような、便軟化剤は界面活性剤であるが、この薬は副作用が少ないものの、慢性便秘の患者で この薬が有効であったというエビデンスはほとんど無い。
  • 酸化マグネシウムは塩類下剤で、腸管からほとんど吸収されず、便の浸透圧を増やして排便を促す。 この薬はまた、コレシストキニン1の放出を促す可能性が指摘されている。
  • ラキソベロンやセンナといった刺激性下剤は、腸の運動を活性化し、排便を促す。刺激性下剤の慢性的な 使用は、低カリウム血症、蛋白喪失性腸症、塩分負荷といった副作用をもたらす可能性がある。
  • ヒマシ油は、刺激性下剤の一種と考えられている。この製剤の使用は、慢性期の電解質異常の副作用の可能性があり、 その使用は推薦されない。
  • ラクツロース2は合成2糖類であるが、これは腸管で代謝を受けない。このため水分と電解質は腸管内に残り、 便中の水分量を増やす。作用は食物線維製剤と類似しているが、それらと比べてラクツロースは高価で、 作用を生じるまでに長い時間(24〜48時間)を必要とする。ラクツロースと同様の効果が得られる他の薬剤として、 ソルビトールがある。
  • ポリエチレングリコールは慢性の便秘に対して、最近使用が認可された。

2  重症化した便秘の治療

上記の治療が効果がない、重症化した便秘の場合は、以下のような治療が必要となる。

行動療法  

排便を習慣付ける方法は、小児の重症便秘の治療に有効性が証明されている。同じような方法は、 大人の神経性の便秘症や、痴呆の患者に対しても有効である可能性がある。

  • 患者はまず、浣腸などの手段により、腸管内を空にされるべきである。これは、毎日2回、3日間の浣腸を行うか、 あるいはポリエチレングリコールを含む電解質溶液を、便がきれいになるまで服用することで、達成できる。
  • 洗腸の終了した後は、ソルビトール、ラクツロース、あるいはポリエチレングリコールを含んだ液体を、 毎日服用する。患者は、朝食後は必ずトイレにいくよう教育されるべきである。
  • さらに、便秘の再発を防ぐため、2日間便がなかったら浣腸またはグリセリンの坐剤を使うよう、指示する。

この方法は、小児の慢性の便秘の78%で有効であった。

この方法を改良して、成人の寝たきりの患者、あるいは痴呆の患者に対して応用することができる。

まずは患者に対して、浣腸あるいはポリエチレングリコール溶液を用いて洗腸を行ったのち、 食物線維の少ない食事を週に1から2回行い、この際一緒に浣腸を行うと、排便の量は減り、 便秘の再発を防ぎうる。

バイオフィードバック  

行動療法が成功しなかった場合、肛門括約筋の弛緩訓練を含んだバイオフィードバック療法が考慮されるが、 これらの効果を報告したスタディはどれもコントロールドトライアルではなかった。

薬物治療  

結腸の運動を促す薬物の試みは、いずれも成功しなかった。たとえばメトクロプラミド、シサプリド3などが トライアルされたが、いずれも効果は証明できていない。

一方、重症化した便秘の患者では、プロスタグランジン製剤のミソプロストール4が、有効であったという 報告がある。また、ポリエチレングリコールや、いくつかのタイプの5-HT4および5アゴニスト5は、 今後有効性が期待できる。

3  結腸切除術

注意深く選択された患者であれば、部分結腸切除術と、小腸直腸吻合術は、治療抵抗性の便秘の患者を劇的に改善することができる。

外科治療を考慮する前に、以下の3つのことを考える。

  • 患者は薬物による治療に反応がなく、また便秘の症状が日常生活に影響を与えている場合
  • 患者の結腸の通過パターンが無力性で、遅いこと
  • 患者の小腸に、閉塞様に見える部分がないこと。これは、核医学的な検査で確認すべきである。

結腸切除術の予後については、74人の患者でのケースシリーズがあるが、 重篤な便秘の患者に対して結腸切除術と、小腸直腸吻合術を行ったところ、60%以上の患者には 結腸に基質的な疾患はなかったという。

術後の合併症の発生は、小腸閉塞が9%、イレウスの発生が12%であったが、56ヶ月のフォローでは、90%の患者が 手術の結果に対して満足していたという。

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On 14 Jun 2002, 18:48.
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